著者インタビュー
女性語と聞くと、「〜よね」「かしら」など、ひと昔前のいわゆるお嬢様言葉をイメージする方もいるかもしれませんが、今回取り上げる女性語とは、「女性ならではの言葉の使い方や表現、より女性らしい言葉の選び方」と定義しています。昨今、女性の社会進出や役割の変化とともに、女性が使う言葉の中性化傾向がみられ、言葉の性差が少なくなってきたと言います。ではそもそも、言葉の男女差というのはどのように生まれてきたのか、また、女性の言葉は時代ととともにどのように変化してきたのでしょうか。そんな女性の言葉の変化や特徴について、『女性の言葉力を磨く 女性語事典』を監修いただいた勝田耕起さんにお話を伺いました
言葉 は時代とともに変化し、中性化している
――最近の女性(特に20代〜40代の女性)の言葉の使い方について、どう感じていらっしゃいますか?
 今の女性は働いて結婚して子供も産んで、プレゼンで使う言葉、あるいはお受験の保護者としての言葉など、TPOに応じて様々に使い分けていると聞きました。それはメイクやコーディネートと似たところがあるように思うんです。社会から強要されて仕方なく使っているものではなくて、使うことでテンションを上げる自己表現のアイテム。楽しみながらコミュニケーションをとるための言葉。だから響きが良いとか思いが伝わりやすいとか、共感が得られればパっと流行って、使い古されたら消える。歴史的にも、例えば「消える」という語を「消ゆる」と古風に言い続けようとしたのは男性で、女性は新しい形をすぐに取り込んだという江戸時代の調査もあります。
 この頃は、ことばの男女差が小さくなりつつありますかね。例えば、昔は男性が主に使っていた「だよ」という言い方は、今では女子学生も普通に使っているし、男性も昔は女性が主に使っていた「〜の?」を「今日、学校行くの?」などと違和感なく使っていたりします。いわゆる男性的な言い方と女性的な言い方が、互いに接近してきている、中性化しているのが現代だという感じがします。日常の話し言葉の9割くらいは、男女が同じ言葉を使っているのではないでしょうか。

――では、残りの1割が男女差となるのでしょうか?
 狭い意味での男性語・女性語というのもあるにはあって、男が「オレ」と言ったり、女子学生が「ウチラ」と言ったりするのは専用の形ですよね。でもその類は1割も無いと思うんです。同じ場面で同じ言葉を頭の中に持っていても、その中からどの言葉を選んで使うか、というレベルで男性的・女性的という差が生じているのではないですかね。そしてそれは、最近よく言われる脳の発達の仕方が男女で違うことと無関係では無いのではないかと。子どもも言葉を覚えるのは女の子の方が早いし、語学や文学は一般に女性の方が得意で「行間を読む」ということができるらしい(私は出来ません)。そういう自然発生的・無意識的男女差はあるように思います。
 女性語の代表的なものに、室町時代の「女房ことば」というのがあります。宮中に暮らす女房たちが身のまわりのものを表すときに使った独特の符牒(ふちょう)ともいえるもので、その集団でしか通じないような言葉でした。その言葉を使うことで、女性たちは仲間意識を感じたり、自分たちのアイデンティティを肯定できたりしたのではないですかね。明治時代の女子学生が使ったいわゆる「てよだわ語」(=「よろしくてよ」「すてきだわ」「かまいませんことよ」など)というのも、その時代の若い女性たちに広まった独特の言い回しで、今の女子大生のキャンパス言葉に通じるものですね。つまり、女性がある同じ役割や目的で集まった時に、そのグループの中で仲間意識を感じるうちに独特の言葉が発生する。女性は単独ではなくグループで行動する傾向がありますよね。
 「女子会」はありますが、「男子会」なんて好んで開催する男子はいません。より多くの人と共感する、という特質がその時代時代の女性の言葉を生み出している。現代女性が好んで使っている1割の部分の言葉は、平成の女性たちの感性にフィットするものとして生まれ、コミュニケーションに潤いを与えているのでしょう。


表現 ひとつで周りの空気や印象も変わる
――では一般的に、魅力的な言葉遣いや話し方というのはどのようなものなのでしょうか?

 例えば午前中の会議が終わって昼休みに入るとき、「昼食は13時までに済ませて下さい」というと13時からの仕事のために燃料補給せよ、という感じになりますが、 「13時まで休憩ですのでお昼をどうぞ」という風に「昼食(チュウショク)」を「お昼」と言ったり、「〜して下さい」を「どうぞ」と言ったり、みんな分かっていることですが「休憩」と口に出して再確認することで、言われる側のOFFへの切り替え、リラックス度はかなり違うと思います。
 女性の婉曲表現というのは、ヨーロッパの言語でも見られるそうです。婉曲に言うことが、結果として〈柔らかさ・丁寧さ〉といったことを表現効果として持つようになり、それが取引先や顧客のみならず、同僚にも良い印象を与えるのならば一番じゃないですか。男性の基本的発想は[なるべく短時間で効率よく任務遂行]=仕事デキル→カッコイイ、ですからね、サボるつもりもないのに余白を作るようなやり方は、努力しないと出来ないんですよ。だから、例えば会社の受付は女性が担うことが多いですが、これはもっともな役割分担だと個人的には思っています。私(身長179cm)などが受付にいるとほとんどの来訪者を見下ろすことになり威圧感抜群です(笑)同じように立つなら警備員ですかね。適材適所ということで。


普段 から使う事で、言葉のセンスが自分のものになる
――最後に、言葉のセンス、表現力を高めていく方法について教えてください。

 身の回りの言葉を、意識して観察するところから始めてみてはいかがでしょう。お店の看板とか、新商品の紹介文とか、他社からの依頼状とか。そういうものの、スタンダードな「型」―これは言わば“ありきたりな文”、間違ってはいないが面白みの無い文なのですが、ここを押さえて初めて、次の段階としてアクセントを付けることができます。直球あっての変化球。ファッション雑誌的にいえば「差し色」とか「抜け感」。と同時に表現のバリエーションのストックを増やし、さらにその「知ってる語彙」を「使える語彙」に格上げできるよう日々チャレンジしましょう。例えば「恐れ入りますが、・・・」という言葉を使ったことが無ければ、今週中に必ず1回はどこかで言うぞ、とノルマを課すとか。仲の良い友達に「恐れ入りますが、その紫芋アイスを一口分けていただけないでしょうか」なんて言って練習するのも一歩前進です。ただ、普段の言語生活が、会話と携帯メールのみでは上達の機会は無いです。むしろ会話やメールから離れて、独りで文を練る時間が取れれば、その時間内は確実に成長します。ちょこっと背伸びした読書でインプットし、準備をして丁寧にアウトプットすれば、言葉は徐々に洗練されていくと思います。

【編集者より】
 今回の講座「女性語事典」は、単に語尾の言い回しをちょっと変えてみたり、女性ならではの言葉を辞書的に学んでいくというだけではありません。言葉に限らず、女性なら女性、男性なら男性ならではの良さや、プラスになる行動やふるまいがあります。そうした性差のプラスの部分=良さをより一層活かし、その人の人間的な魅力を高めていくことがこも講座の目的です。
 この講座では、より好印象に見える言葉の使い方、上品さを演出できる言葉の作法、女性によくありがちな人間関係やコミュニティのなかでうまくやっていくための会話のテクニック、さまざまな状況や目的に合わせて戦略的に言葉を選ぶテクニック、それらを全て含めて女性語と定義し、いろいろな形で使いこなすノウハウを学んでいきます。メイク、ファッション、ボディメイキングと同じように、言葉のセンスも磨いていきたい、そんな美しさを追求しながら働く女性にぜひおすすめです。
著者プロフィール
勝田耕起 (かつた こうき)

フェリス女学院大学
日本文学科准教授
1970年福岡県生まれ。東北大学文学部国語学専攻卒、2000年同大学院文学研究科博士課程単位取得退学。東亜大学専任講師を経て、2004年より現職。古代の日本語から現代女性ファッション雑誌の言葉まで幅広く目を向け、語彙や文体について研究・講義の日々。
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