コンピテンシーという言葉が人材開発の分野でこの数年、流行している。コンピテンシーとは、いわゆるハイパフォーマーの行動特性で、それを明確にし、その他大勢にも習得させれば、会社全体のパフォーマンスが向上するというのである。どこの会社でもなるほどと思わせる人はいて、経営者は頼もしいと思っているものだが、意図的にそういうやり手を作り出せるのか、一方で262の原則があり、自然発生的に2割相当はできる奴になるし、その対極に2割はどうしようもないという見方もある。

 私がこれまでに依頼を受けた会社の例で言えば、Z社のことを思い出す。この会社は、3つほどの拠点を持ち、展示会に顧客を招待し、対面販売していくという形態を取っていた。いわゆるトップセールスは、年収でも1000万円は軽く超えているし、ほとんど歩合制の報酬体系なので、全体のバランスを考えて調整していく必要はない。会社としても、たくさんの給料を取ってほしいと考えている。

 ところが、上位の5%程度しか好業績を上げておらず、何と全体の6割以上はほとんどゼロに近い実績で定着しないまま短期間で離職しているのが実態だった。つまり、この会社では、262ではなく、1に対して中間層が2、下位層が10くらいの比率だった。トップの関心は、中間層をいかに厚くするか、ということと、人件費を投資と見れば回収がゼロに近い下位層をどうするかに向けられていた。コンピテンシーは、このような会社には1つのソリューションとなるものだ。

 まず、ここで重要なことはハイパフォーマーの分析を通じて採用すべき人材のモデルを把握し、採用者数を絞ることである。入社後、中間層、つまり上位3割の実在者のレベルに到達しないと見られる人材の採用をなるべくしないことである。採用基準は逆に言うと、採用しない人材モデルでもある。ただ、この採用すべきでない人材のモデル化は、いわゆるローパフォーマーや、短期離職者の特性分析も併用して行うべきである。

 この会社の場合、わかったことは、素直さがなく、自分なりのやり方や考え方に固執する人は、定着しないということがわかった。この特性は、適性試験で言えば、従順性(の低さ)であり、※交流分析ではACに相当する。これは簡単な質問文でも検査することができる。また特性分析を続けていくと、次のようなこともわかった。打たれ強さともいうべき特性の低い人はどうもへこみやすく、早くに辞めてしまうということもわかった。

 これは、プレッシャーで動じた際の回復力、フィードバックされることのストレスを前向きな気持ちに転換することである。これは心理テストでは責任性が中程度より高くないことで検定できることが知られている。つまり、責任性が高いことは必要なのだが、どうも一定以上に高い人材はへこみやすく、ストレスを抱え込んでモチベーションを維持できないのだ。

このほかにも注目すべき特性はあるのだが、紙幅の関係で割愛せざるを得ない。コンピテンシーの分析は、常識を覆す人材特性に関する情報マネジメントを示唆することもあり、今後も人材マネジメントにおいて重要な意義を持つように思われる。



1950年代後半にエリック・バーン(精神科医)が,人間の心の成り立ちや言動を分析したもの。
P…「親(Parent)の自我状態」…批判的P(CP)と保護的P(NP)
A…「成人(Adult)の自我状態」…物事を客観的に理解し,判断,決断する
C…「子供(Child)の自我状態」…順応のC(AC)と自由のC(FC)に分けられる。


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