営業マンを採用するのにどんな人物がいいのか、多くの会社では、やる気と積極性があり、コミュニケーション力の高い人という答えが返ってくる。しかし、これは、必ずしも適切でないことが実証されている。私がアセスメントツールや適性試験などの開発でコミットしているAGP行動科学分析研究所には、職務適性と性格・行動特性に関する膨大なデータがある。それによると、常識と思われていることと異なる意外な真実が明らかになっている。

 採用対象としても数も多い営業では、どんな人が成功し、逆に失敗してしまうのか。やる気は、心理学で「達成意欲」といわれるのだが、これが高い人は一般に何かをやり遂げようとする気持ちが強い。だから、営業実績もより高くしようとする行動傾向を示すだろう。常識的にはそう考えることができる。ところが、極端にやる気のある人、すなわち達成意欲の非常に高い人は、「親和欲求」(他人と人間関係をよくしたいという欲求)が低くなる傾向があり、さらに「従順性」(指示や命令を受けたときにそれに素直に従おうとする傾向)とも逆相関にある。そのため、達成意欲の高さはある程度、プラスの行動性向になるのだが、一定上の高さは危険因子が高くなり、アンバランスな職務行動を取るリスクが大きくなってしまう。

 このことは、マクレランドという心理学者にも指摘されている。人間には、達成意欲、権力欲求、親和欲求があり、親和欲求は他の2つと逆相関になることが実証されている。またリーダーの適性は、親和欲求が相対的に低く、達成意欲、権力欲求が高い人だと指摘されている。つまり、周囲と折り合う行動性向と何が何でも何かをやり遂げようとする行動性向は相反することだということである。

 行動性向は、組織の風土や文化とも関係している。それは個人の特性である一方で、それが促進されることもあれば、抑制することが望ましいとされる場合もある。長年、どこかの組織に在籍していると、ある行動性向は強化され、伸びることもあるし、逆に内面にはあっても行動にあまり現れないこともある。営業職に関して、達成意欲を鼓舞されることは、反面では親和欲求の発露を抑え込まれることを必然的に意味する。そのため、協調的な行動を取らない風土が形成されることもある。親和性の不足や欠如はさまざまな問題を引き起こすことがあるが、何らかの問題が生じてから急に慌てても、木に竹を継ぐ対処になりかねない。例えば、情報やノウハウの共有化が必要になって急に営業部門で始めようとしても、達成意欲至上主義の文化がある場合、はねのけられ、遅々として進まないことになる。

 積極性はどうだろうか。誰かに指示されなくても、自ら進んで行動する性向はどの職務にも必要な貢献因子である。とりわけ、営業では高ければ高いほどいいと考えられている。しかし、これも神話に過ぎない。積極性の極端に高い人は、過剰な行動に走ってしまい、抑制が効かないことが多く、そのために職務不適応を引き起こすことが少なくない。離職するばかりか、転職を繰り返す人も多いし、ルールを破って余計なことをしてしまうこともあるようだ。この性向もまた、達成意欲同様、組織の文化で強化されると、野放図な風土が形成されることがあるだろう。



※本稿に関しては、AGPの開発主任である廣瀬慎一氏に有益な情報提供を頂きました。


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