コンピテンシー+問題特性の両方を見ることが重要


先ほど紹介した職場での脱線現象は、問題特性(ディレールメント)という言葉とともに近年では職場におけるリーダーシップや人材育成を考える際、重要な概念として注目されてきています。つまり、せっかくの才能や能力を活かせないまま終わってしまうこと、持ち前の才覚や自信、意欲など成功のための条件が返って災いして失敗してしまうことをディレールメントといいます。そしてディレールする人のことをディレーラーというのです。

ディレールメントをもたらす要因特性についても考えておきましょう。これをやや広くディレールメントを捉えると、十分な資質が備わっているのに、その資質を活かす障害要因になるものもディレールする特性ということになるでしょうし、職務経験を経て十分な成功を収めた後にディレールする場合の要因特性を指すこともあります。ここでは、広く職務の障害要因、阻害要因、問題特性をディレール特性と考えておくことにします。このテキストでは、困った人への対応を解説し、実践的に示していきますが、困った人はまさしく何らかの意味でディレーラーのことになります。

一般に困った人は、何らかの能力が不足していると考えることが多いかもしれません。確かにそういう考え方で捉えることも可能です。そうなると、コンピテンシーが足りないから、コンピテンシーを習得すれば普通の人になると考えることになります。しかし、困った人の多くはもともとの能力そのものでは並か場合によってそれ以上のこともあります。そういう意味では、それなりのコンピテンシーは持っているのです。むしろ何らかの障害要因で十分に能力が発揮できていないとみるほうが現実的であることも少なくないです。この場合、ディレールメントというアプローチが有効であると思われます。

ある会社の例ですが、この会社では、目標管理面談を行っています。この会社では面談シートに沿って、次のような手順で話し合いが実施されています。

【表 3 目標管理面談における話し合いの例】

1. 
普段の仕事に関しての業務量、やりがい(満足度)、本人としての職務適合度の確認。これはそのままかなえられるわけではないが、一種の「ガス抜き」と言える。
●今の仕事は楽しいですか、やりがいを感じられますか?
●担当している仕事は多すぎないですか?
●今の仕事は自分に合っていますか?


2. 健康状態の確認。相手によるが、心身ともに健康状態がいいかをチェックする。
●健康状態はどうですか?
●仕事に支障を感じることはないですか?


3. 昨年度計上した業務課題とその到達度合いの確認。この場合の到達度合いはあくまでも本人の自己評価である。
●昨年度計上した課題の到達度合いは、ご自身の評価ではどうですか?


4.次年度計上しようとしている業務課題とその成果指標の確認。どのような状態になっていれば成果になるといえるのかを明示する。
●次年度計上しようとしている課題は何ですか?
●その際の成果指標はどんなものですか?どうなっていれば成果といえますか?


5. コンピテンシーの発揮度合いについてのフィードバック。
●あなたのコンピテンシーの発揮度合いですが、・・・・・?


6.ディレールメントに関する上司からのフィードバック。
●あなたの問題特性に関して、私の普段感じていることを申し上げたいのですが・・・・


7.  本人からの要望事項等の確認。
最後に何か要望事項はありますか?


【表 4 コンピテンシーの例(一部)
理想的行動レベル 標準的行動レベル 問題行動レベル
傾聴・共感
●徹底的な傾聴姿勢
深い共感性の発揮
よき相談相手としての人望
すぐに打ち解ける雰囲気

●言外のニュアンスへの敏感さ
話し手に対する真摯な態度
よき聞き役に徹する姿勢
相手によって態度を変えない

●相手の感情への無配慮
相手の言い分を聞き流す態度(馬耳東風)
自分の悪感情を抑えきれない衝動性
上には媚びて下にはぞんざい
人に対する無関心
責任・徹底
●完遂に向けた強靭な意志
担当者としての責任の貫徹
コンプライアンスの周囲への徹底

●コンプライアンスの徹底
責務感に満ちた真摯な態度
守秘義務の徹底
責任ある上位者補佐

●ルールの軽視
管理不徹底による機密漏洩
保身のための責任転嫁
ばれなければいいという自分本位さ
分析・把握
●本質に迫る深い洞察
発想を革新させる課題形成

●的確な要点把握
綿密な情報収集

●不注意による抜けや漏れ
歪曲のある情報伝達
勘違い


課題解決
●斬新な創造性の発揮
たゆまざる探究心
的確でタイミングのよい決断
俯瞰的な見通しに基づく判断

●迅速な意思決定と決断
ニーズに応えた的確な企画立案
健全でバランスの取れた判断

●拙速/早とちり
木を見て森を見ずの思考
考慮すべき要件の見落とし
優柔不断
日和見的な対応
【表 5 過剰行動のリスト表 例】
評価観点 行動着眼点
傲慢さ 1 他人の意見に対して、理由をつけて否定的な態度を取ってしまう。
2 他を軽んじる横柄な態度、高慢なものの言い方をしてしまう。
3 何もかも自分の実績だと手柄や成果を独り占めしようとする。
4 物事の解決に当たり、他人の意見や提案を聴こうとしない。
過剰防衛 5 他人から強く批判されると、苛立ち、反抗的態度を取ってしまう。
6 自分の過ちや欠点を指摘されると、感情的になる。
7 ミスや不都合があっても、自分はあくまでも悪くないと言い訳に終始する。
8 些細なことで癇癪を起こし、ヒステリックに反応する。
思い込み 9 突き詰めれば正しい答えを持っているのは自分だけと思っている。
10 自分の意見に根拠もなく固執し、修正することができない。
11 意見の異なる他人の言い分には理由を変えてでも反論する。
12 自説にこだわり、傾聴姿勢に欠ける。
冷淡さ 13 同僚や部下に対して思いやりのない態度を取ってしまう。
14 同僚や部下に対して薄情で、共感的な態度が取れない。
15 他人の失敗やミスには不寛容で、激昂し罵倒する。
16 同僚や部下が相談しようとしても、親身に接することがない。

株式会社アイ・イーシー東京都千代田区飯田橋4-4-15All Rights Reserved by IEC