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第8回
やりたいことを見つけるために―未来を描く心に自由を
「将来どんな仕事につきたいか、まだはっきり決まっていないなぁ」
最近フィンランドの中高生に、進路についてインタビューをする機会があった。しっかりと自分にとって「これしかない!」というものをすでに見つけている人もいれば、こんなふうにまだ迷っている人も当然いる。方向が少しも定まっていないと、高校生にもなれば少々焦りが出るのでは…と思ったが、よくよく話を聞いてみると、どうやらそうではないようだ。

「最近は、世界を飛び回る観光ガイドの仕事に興味があるの。もしそれが叶わなかったら、美容師になるのも素敵だと思う。演劇クラブに入ってた影響で、役者の道も候補に入れているんだ」
「僕は、学校の先生になりたいなって思うんだ。でも前、花屋で夏のアルバイトをしたらそれがすごく良くて、フラワーアーチストもいいなって。あと、牧師も捨てがたいなぁ」
彼らの身近なところに魅力的な職業が溢れていて、やっていみたいことがたくさんあると言うのだ。彼らの言葉には、実に夢があり、将来が未定なことにも関わらず希望に瞳を輝かしている。これから必要なだけの時間を十分にかけて、たくさんの候補の中から、何が一番自分に向いているのかを選び抜くと言う。

やりたいことがいくつもあって迷ってしまう、などというシチュエーションが羨ましいという人もいるだろう。どうしたら、フィンランドの若者たちのように自分のやりたいことを見つけ出すことができるのか。キーワードの一つは「自由な時間の多さ」なのかもしれない。フィンランドの学校は一日が比較的短く、学校の後にさまざまな趣味に興じることができる。どこにも定期的に通っていない人は珍しいくらいだ。日本の部活動と違うところは、その気軽さだろう。こういった趣味の場は、基本的に好きな時に参加し、好きな時にやめることもでき、また掛け持ちすることもできる。そうして、いろいろなことを始めてみることで、自分がどんなことが好きなのかを探すことが可能だ。

また、「その仕事が自分に向いているかどうかは、やってみなければわからない」場合も多いだろう。そんな時は、2ヶ月半の長い夏休みを利用して、アルバイトをしてみる方法もある。休みではなくても、中学校や高校では、短期間仕事をする機会も与えられる。一日から一週間など決められた期間、好きなところで働くという制度があるのだ。自分の両親の職場で働かせてもらう人もいれば、普段何度も通っているお気に入りの店に頼んで雇ってもらう人もいる。私が高校2年生の時は、ホストマザーのお勤め先だった赤十字の難民を受け入れる施設に一日居させてもらったが、とても心を豊かにする体験となった。稼いだお金は学校で集められ、ボランティア活動を行っている団体などに寄付された。まさに良いことづくしの企画だ。

インタビューに自ら希望して参加してくれた高校生の男の子が言っていた。
「2、3年前から、何でも新しいことは挑戦してみるっていう姿勢でいることに決めたんだ」
いくら自由な時間があっても、働く機会を与えられても、自分自身がアクティブにならなければ意味はない。すると、「好奇心」はもう一つのキーワードかもしれない。おもしろそうなことが目の前を通り過ぎるのを待つのではなく、自ら探しに出かけることが重要だと言えるだろう。そして、自由な時間があっても、未来を描く自分の心が自由でなければ、時間の余裕は無駄になってしまう。それを仕事にしてもお金になるとか、ならないだとか、そういうことを今、最も優先して決断しては、いつか自分の人生に満足しきれていない自分と対面する日が来るかもしれない。かつて自分が抱いていたそれは、「現実は甘くない」という他人の言葉に、自分には無理だとあきらめてしまえるほど、価値の薄いものなどではないはずだからだ。自分の人生を計画する上で、自分の夢や希望ほど重要なものは他にないと私は思う。

フィンランドと日本でおそらく最も異なっているのは、若者を取り巻く将来ではないかと思う。フィンランドの若者は、のんびりと夢を描き、それがアーティストやモデルなどどんなに限られた世界であっても、一番やってみたい職業に勇気を持ってチャレンジするのに対し、日本の若者は気の毒なくらい将来に対して慎重にならざるを得ない状態なのではないか。不況や社会保障が充実していないことが不安をあおっていて、とにかくお金を稼がなければいけない、自分のやりたいことをどうしても優先できないといった状況になり、好奇心を持つこともあきらめてしまっているのかもしれない。「どうせ、趣味みたいなことは仕事にしてもお金にならない」というふうに。だから、「やりたいことがない」と日本の若者の多くが言っていると聞くが、これは、「お金になって、しかも自分自身もやりたいと思えることがない。だからどうしたらいいかわからない」と、いうのが本音なのではないか。

社会や環境がそういう状況をつくりだしているとしても、それに負けずに、若いうちに夢にチャレンジして、自分のやりたいことを成し遂げ、満足した人生を送ってもらいたい。日本の若者にも、本当は自分のやりたいことが一つくらいはあるはずだと私は信じている。

一生自分に言い訳を聞かせ続けずにすむように、今、自分の心に素直になるチャンスを、自分自身に与えてみるべきではないだろうか。本当は、誰でも必ず持っているはずなのだ。閉ざしてしまった心の奥に、日の目を見ることのなくなった懐かしい夢を。


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