13億人はヒトそれぞれなれど、興味が尽きない中国人。もっとよく理解するための連載講座
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第2回 すごいぞ中国人! ニセモノ編
 中国のイメージを悪くしている要因のひとつに、「ニセモノ王国」という側面があることは否定できません。事実、中国では、海賊版のCD・DVD、有名ブランドのコピーなど、ありとあらゆるパクリ商品を目にしてきました。なかでも最も強烈な印象が残っているのは、もう10年以上前になりますが、湖南省の長沙市の雑貨店で発見した「カルビー ポテトチップス」です。今でこそ、大都市のコンビニやスーパーに行けば、日本のお菓子を簡単に買うことができますが、当時、長沙クラスの地方都市では奇跡に近い話。1年以上も現地で生活し、日本のお菓子に餓えていたこともあり、欣喜雀躍して5袋くらいまとめ買いしたのでした。
 中国人の友人がいる席で、「これは日本で大人気のスナック菓子だよ。めちゃくちゃおいしいから食べてみて」と自慢しつつ開封したところ、なんと中身は似ても似つかぬお粗末なシロモノ。パッケージは完全にオリジナルと一緒だっただけに、「ここまでやるのか……」と言葉を失ってしまいました。
 落胆する僕の姿を見た友人は、「ありゃ、これはおいしくない。せめておいしければ納得できたのに」などとトンチンカンなことを言う始末。勤勉で常識人だった友人ですら、この程度の認識ですから、当時の中国でいかに知的財産権の概念が希薄だったか、推して知るべしです。
 この一件には後日談があり、あまりに悔しかったので、「証拠写真」を撮影し、カルビー本社に情報を提供してあげたのですが、返答は梨のつぶてでした。このような例はゴマンとあり、もう匙を投げていたのかも知れません。
 ドラえもん、ウルトラマン、ポケモン、ミッキーマウス――海外の有名キャラの無断使用もまた日常茶飯事です。とても残念な現象ではあるのですが、ただ、これらのコピー商品の全部が全部、明確な悪意をもって作られたとも思えないのです。前出の友人のように、まだ知的財産権の概念が浸透していない状況下、子ども受けする人気キャラを拝借して――という程度の軽い気持ちだったものも少なからずあるのではないでしょうか。
 背後に大資本が見え隠れし、本物と寸分も違わないコピー商品を偽造する行為は悪質この上ありません。ですが、人気キャラがプリントされたシャツやグッズの場合は、おそらく作っているのは町工場的な場所でしょうし、そもそも、ぷっと苦笑してしまうくらい似ていないものが多いのです。
 もちろん、知的財産権の侵害を容認する考えは毛頭ありませんが、悪質な「偽(にせ)物」と、さほど悪意はない「似せ物」を区別する余裕があっても、という気がするのですが。「中国はパクリばかりの国だから」という先入観をもって付き合っては、ニセモノ以上にたくさんある中国の素晴らしさを見つける目を曇らせることになり、もったいない話だと思います。
 「似せ物」についていえば、一時期、ディズニーのパクリキャラで話題となった北京の石景山遊楽園。いびつな表情のミッキーは、案の定、苦笑失笑ものでした。こんな胡散臭いミッキーを登場させるのは、褒められた商売ではありません。しかし、それでも無邪気に喜ぶ子どもたちの笑顔を目にすると、複雑な心境になることも事実です。
 富裕層の家庭に生まれた子どもならば、香港や日本のディズニーランドへ連れていってもらえるはず。いまや東京ディズニーランドは中国人観光客であふれていますし、派手なショッピングをしているのは日本人よりも中国人です。

 豊かになったとはいえ、まだディズニーランドへ行けない子どものほうが圧倒的に多い中国。あんなインチキミッキーなど、本家ウォルト・ディズニー社の経営に何ら影響を及ぼすわけではありませんし、僕は「そこまで徹底的に批判しなくても」との思いで一連のニュースを眺めていました。最後にこれは大いに賞賛したい「パクリ」の話題も。
 最近、北京で大繁盛している羊肉のしゃぶしゃぶチェーンがあります。その成功の秘訣は、とにかく徹底したサービス。店内やトイレを清潔に保ち、待っているお客さんに椅子やお茶を用意するなど、オーナーが日本で学んだサービスの極意が随所に反映されており、これが中国の消費者には目新しく映っているようです。繁盛店があれば、真似をするのが商売の鉄則。日本式のサービスが、いずれ中国でもスタンダードになる日が来るでしょう。
 思い起こせば、いまや当たり前となった「サービス(服務)」という概念でさえ、ひと前の中国には存在していませんでした。従業員がロクに返事もしない、つり銭を投げて返す、といった共産主義の悪弊は、もう昔語り。サービス同様、知的財産権の概念も、国家としての成熟に伴い、少しずつ広まっていってほしいものです。
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