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特集インタヴュー
――細谷さんはご自身の本のなかで、「頭がいいというのには3種類ある」とおっしゃっていますよね。それを読んで、個人的にまさに目からウロコというか、長年の違和感がスッキリしたんです。普段は本を読んでもめったにメモをとったりすることはないんですが、細谷さんの本を読んだとき、「これは!」と思って、思わず手帳にメモを取りました。会う人会う人にこの話をしています。人によって「頭がいい」ととらえているベクトルが違うということかと、初めてわかったわけです。
そうなんです。本で書いたことの繰り返しになりますが、「頭の良さ」は3つに分けられます。第一が「知識・記憶力」、第二が「対人感性力」、そして三番目が本のタイトルにもなっている、考える力としての「地頭力」です。

――それぞれを簡単にご説明いただけますか?
はい。一つめの「知識・記憶力」ですが、その名の通り知識や経験が豊富であるということですね。ビジネスで言う「専門家」、日常生活でいう「物知り」というのがこの能力に優れた人たちです。二つめが「対人感性力」で、人の気持ちを理解する力、場の空気を読む力といった「理屈では説明のできない頭のよさ」といってもいいでしょう。三つめが考える力としての「地頭力」です。思考能力が高い人はこの地頭力が高いといえます。(図@参照)

――たとえば、同じ「頭がいい」といっても、この3種類はまったくそのベクトルが違いますよね。
そうです。ただ、この種類だからこの職業が向いている、というのではなく、この構図はどの職業にも当てはまるものです。たとえば売れる営業マンにはこの3種類のタイプがいます。「知識力」タイプは商品知識が豊富な営業マン、「対人感性力」タイプはお客さまに人間的に好かれて
「あんたからなら買うよ」と言われるタイプ、「地頭力」タイプは、ソリューション型と言われるような、お客さまの困っていることを聞き出して、「こういうのはどうですか」と提案していくタイプです。さらに言えば、お笑いなんかでもいえると思います。売れるお笑い芸人にも3種類いて、たとえば、パターンを作ってそれを見せることによって笑いをとるタイプが知識型、司会や軽快なトークで人を楽しませるのが対人感性力型、ネタを作りこんで考えていくタイプが地頭型といえます。

――そうやって見ていくと面白いですねえ。
ただ、この3種類のお笑い芸人のなかでも、知識型は対人感性型や地頭型よりも飽きられやすい傾向にあります。
知識型は常に新しいものを作り出して見せていかなければいけないのですが、それは非常に難しいでしょうから。対人感性型や地頭型のほうが土台がしっかりしているので、長く生き残れるのだと思います。

――それは色々なビジネスについてもあてはまりそうですね。
はい。伝統的に日本の教育は知識の詰め込みを重視していると言われてきましたが、これによって養われてきたのは、知識・記憶力です。ただ、インターネットが発達して、だれでも知りたい情報がすぐに手に入るようになってしまい、その知識を持っていること自体の価値がどんどん薄れてきています。ですので、ビジネスにおける差別化のポイントは、「情報・知識そのものをたくさん持っているか」ではなく、「簡単に手に入れることができる情報や知識に、自分で考えてどのように付加価値をつけられるか」ということが重要になってきているのです。

――細谷さんのお仕事であるコンサルティングの現場では、まさにそういった時代の変化がとても感じられそうですね。細谷さん自身、コンサルタントを始めた頃と現在とは、時代の違いを感じますか?
たとえばコンサルタントの仕事自体が変わってきてるんですが、昔は「アメリカでこんな概念が流行っています」ということを紹介するタイプの仕事ってけっこうあったんです。でも極端に言えば今はそんなことみんな知っていますから、流行らないですね。クライアントとの知識の差が少なくなってきていて、そういった知識自体の付加価値がなくなってきているんです。昔は海外の事例をうまくまとめていって、一つのコンセプトとして出すっていうのが、コンサルタントのやり方でしたけど、そういうのは最近はあまり流行らないですね。まさにコンサルタントの本領である「問題解決」という部分が大きくなってきています。

――その「問題解決」と「地頭力」について、少しご説明いただけますでしょうか?
言ってみれば、人間が「頭を使う」というのは、広い意味での「問題解決」ですよね。何らかの意思決定をする、もしくは新しい成果を生み出すといった行為は、すべて何らかの問題を解決するためにおこないます。この問題解決のプロセスと、3つの知的能力がそのどのプロセスで関係するのかを図解したのが以下の図Aです。
問題解決をするときに、手順として「情報を集める」「付加価値をつける」「伝える」というサイクルを、我々は色々な形でやっているわけですが、「情報を集める」ときには知識が必要だし、「付加価値をつける」ときには考える力が必要だし、「伝える」ときには対人感性力が必要なわけです。その3つによって成り立っていると、私は考えています。
これは、料理についても例えられます。おいしい料理を作ろうと思うと3つのファクターが必要で、良い食材を「集める」、料理の腕前で加工し「付加価値をつける」、盛りつけや店の雰囲気、接客で料理の良さを「伝える」ということです。たとえば、だれも持っていない良い食材があれば、それを切って差し出すだけで「旨い!」となりますが、もしその食材をみんなが持っていれば、ただ切って出すだけではダメで、誰よりもおいしく料理しなければなりません。
ビジネスにおいても同じで、いまはインターネットで誰もが同じような情報を簡単に手に入れることができるわけですから、だれもが手に入れることができる情報
をただ持っているだけではダメで、それを自分の頭で考えて、なんらかの付加価値をつけなればならないのです。

――それは教育にもいえそうですね。
そうですね。教材そのもので差別化するというのにも限界があります。従来は教師側が情報を囲い込んでいたため、情報を知っていること自体に価値があったのですが、いまは誰もがネットで簡単に情報を手に入れられるので、囲い込めないし、その情報を持っていること自体の価値はあまりないのです。コンテンツそのものだけで勝負するのは厳しい時代といえます。

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