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特集インタヴュー
――そのような時代の中で、企業の教育担当者がどのように教育すればいいのか、というのも悩ましいところかと思います。そこで、細谷さんから企業の教育担当者の方々へアドバイスをいただけますでしょうか?
社員の教育をする方にとっても大変な時代に入ってきていて、ある意味、社員教育というのは学校教育とは違って
「答えのない教育」だと思うんですね。この「答えのない教育」というのは非常に難しい。答えがあれば、その答えを教育する側が持っていれば、それだけで価値があります。「教える人」と「教わる人」が明確に分れているわけです。ただ、「答えのない教育」、これは「考える教育」と言い換えることも出来ると思うのですが、「考える教育」になると、ガチンコ勝負なわけです。「教える人」と「教わる人」が分かれているわけではなく、一緒に考えなければいけません。教える側がそれなりの覚悟を持っていないといけないのです。ですので、教える側の人間にとっては非常に大変な時代なんじゃないかと思います。このように言うと本当に大変なように思えますが、見方を変えれば、「相手に考えさせることを上手くできる人」というのが、このような時代の教育には必要なのかもしれません。教育する側が上に立つというよりは、相手の能力をいかに引き出すかということです。

――細谷さんご自身も子供の頃からそのような「考える」力を高めるトレーニングをされていたのですか?

いやいや、まったく逆です(笑)。私はある意味詰め込み受験型教育の申し子みたいなものですから。その弊害をすべて背負ったような世代ですので。たとえば、数学の問題などでも暗記で解いているんですよね。とにかくパターンを記憶するというね。そういう勉強のしかたをしていたので、大学ではまったく通用しなかったです。数学とか、もう全然できなかった(笑)。大学に入ったときなど、かなり壁にぶち当たって、もうどうしようかって感じでした。いまは「地頭力」なんて本を偉そうに書いていますけど、大学のときの先生がその本を読んだら、腹抱えて笑うと思います(笑)。

――地頭力の本やこのインタビューを読まれている方は、おそらく細谷さんは完全無欠な地頭力をお持ちではないかと思っていることでしょう。私もそうですし。
いえいえいえ、全然です。たとえば書籍では、人間には考える力を奪うさまざまな思考の癖があるということを書いていて、どのような思考の癖があるのか、具体的にいくつか挙げているのですが、私にもその思考の癖がかなりあてはまるんです。ほんと、自分のことばっかり考えてしまいますし、話し始めると周りが見えなくなって自分ばっかり話してしまいますし。

――それを聞いて、正直ほっとしました(笑)

ただ、少しだけ地頭力について有利な部分があるとすれば、自分がそういう思考の癖をもっているということを人一倍よくわかっているということだと思います。それがあるから、「まずいな」と思ったとき、一歩離れて自分を見ることができるんでしょうね。自分にはこういう悪い思考の癖がある、ということを意識することが大切だと思います。

――細谷さんは地頭力は鍛えられると書かれていますが、その一方で生まれつきの地頭力もあるとも書かれています。その生まれつきの地頭力とはどんなものですか?
たとえば、知的好奇心を鍛えられますか、というと、これは難しいと思います。ただ、他の能力については、人そそれぞれ生まれつきの部分とその後の伸びシロの部分があると思います。

――他の能力と言いますと?
私は地頭力を「考える力」のベースとなる能力だと定義しているのですが、その地頭力の構成要素を分解すると、図@のようになると考えています。まず最もベースになるのが「知的好奇心」で、その上の層に「論理思考力」と「直観力」があります。前者と後者は、いわば「攻め」と「守り」の関係です。最上位に来るのが「仮説思考力」「フレームワーク思考力」「抽象化思考力」の3つです。それぞれをひとことで説明すると、仮説思考とは「結論から」考える思考のこと、フレームワーク思考とは「全体から」考える思考のこと、抽象化思考とは「単純に」考える思考のことです。これらの3つの思考力は、ベースとなる能力に比べて比較的トレーニングしやすく、伸びシロが残されていると言えます。
さらに言えば、おそらく、「○○力」と呼ばれるものは全部そうだと思うんですね。体力でもそうだし精神力でもそうだし。すべて生まれつきの部分はあって、そのあとの伸びシロが人それぞれ必ず用意されているのです。この伸びシロの部分をどうにかして伸ばしていきましょう、というのが、書籍の意図なのです。そういった伸びシロの部分は、むしろ大人になってからのほうが、そういったことはできるのではないかと考えています。


――仕事ができる人になるためには、先ほどおっしゃられた3つの頭の良さのほかにはどのようなものが必要であったり、鍛えたりすればよいでしょうか?

それはですね、まさに次の図Bにある「心」「技」「体」の3つです。「体」は文字通り、基本的健康と体力。「心」は2層に分かれ、まずは人間としての土台の部分、つまり人間として素直であることや、礼儀正しさ、前向き思考、根気強さ等が必要です。その上が応用としてのプロ意識であり、仕事に関してのコミットメントや守秘義務の意識等があります。「技」がいわゆるスキルの部分で、これも基本となるビジネススキル(基本的文書作成やMBAで習うような会計、ファイナンス、IT、マーケティング等)と、この上に実践的な武器となる能力として先ほど述べた「3つの知的能力」(地頭力、対人感性力、知識力)が必要となるのです。

――仕事ができる人になるためには、先ほどおっしゃられた3つの頭の良さのほかにはどのようなものが必要であったり、鍛えたりすればよいでしょうか?
それはですね、まさに次の図Bにある「心」「技」「体」の3つです。「体」は文字通り、基本的健康と体力。「心」は2層に分かれ、まずは人間としての土台の部分、つまり人間として素直であることや、礼儀正しさ、前向き思考、根気強さ等が必要です。その上が応用としてのプロ意識であり、仕事に関してのコミットメントや守秘義務の意識等があります。
「技」がいわゆるスキルの部分で、これも基本となるビジネススキル(基本的文書作成やMBAで習うような会計、ファイナンス、IT、マーケティング等)と、この上に実践的な武器となる能力として先ほど述べた「3つの知的能力」(地頭力、対人完成力、知識力)が必要となるのです。

――ところで、細谷さんの本を読んで、ほかにもすごく「なるほど」と思った箇所がありました。『終わりから考える「仮説思考」』のところで、仮説思考をするためには、「切羽詰った状態をつくることが重要」それは「時間を人一倍大事に考えること」であり、「目覚まし時計が鳴っている状態をつくっておくこと」。そして、人生で大きなことを成し遂げている人は、若くして「人生の目覚まし時計」が鳴り始めた人だ、と書かれていますよね。

はい。十代で鳴り始めた人は偉人になり、二十代で鳴り始めた人はひとよりとがった業績を出せます。三十代で鳴り始めたら普通の人、四十代は最終電車にギリギリセーフです。そして五十代でも鳴らなかったら、それはそれで幸せだと思います。私が鳴り始めたのは35歳くらいでしたけどね。二十代の頃とかは、まさに湯水のごとく時間を無駄遣いしていました(笑)。

――まだ時計が鳴っていない人たちを気づかせるためにはどうすればよいでしょうか?

本当に、気づきというのは非常に重要で、「気づき」っていうのがある意味「人が育つ」っていうことのすべてのような気がします。ただ、「人を育てる」とよくいいますが、私は基本的に人は育てるものではないと思ってるんですよ。「育てる」ではなく、「育つ」という自動詞だと思ってるんです。育った人に対して育成した側の人間が「育てた」というのは非常に傲慢な話であって、それはその人が「気づいた」から「育った」わけであって、教えこんで「育てる」のではないのです。育つ状況になったときにいかに上手く本人を後押しする環境を用意できるか、ということだと思います。<end>
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