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―早速ですが、吉本興業のような芸能界で働く人と一般の企業で働くの一番の違いはどういうところでしょうか?

会社を辞めてから気づいたことですが、タレントは、あまりストレスが溜まらないんです。なぜかというと「自分の名前」で仕事をしているからなんです。もちろん売れないというフラストレーションはあるでしょう。でも、たとえば島田紳助君や明石家さんま君なら「島田紳助」「明石家さんま」という「自分を売る」ということが、その自己実現につながりますし、収入のアップにもつながりますから、ストレスがたまらないのです。ところが、サラリーマンの場合は○○株式会社の部長とか取締役とか、あるいは課長とかという名前で仕事をしています。それに、必ずしも成果を上げたことが自己の評価に直結していないという苛立ちもあるでしょう。

それから、タレントの世界というのは、マーケットの評価というのが自分の評価につながるというダイレクトな世界でしょう? 非常にフェアなんです。ところがサラリーマンの場合は、自分に対する評価が、必ずしもマーケットの評価、お客様の評価と一致しないことがあります。上司の好みなどというところでちょっとバイアスがかかってしまう難しさがあります。組織の管理というのは難しいですけれども、一般の企業においても、できるだけ、そのマーケットの評価がその人の評価につながるようなシステムを作るということが、キーポイントなのではないでしょうか。

―これまで、吉本興業でマネージャーや常務をされ、たくさんの人材を育ててこられましたが、何が一番難しかったですか?
全然難しくないです。人を管理しようとするからダメなんです。私は横山やすしさんのマネージャーをやっていまして、最初はすごく悩みました。マネージャーの仕事というのは戦略を描いて、その戦略どおりにタレントを歩ませることだと思っていましたから、横山さんの場合はことごとく外れるわけです(笑)。思ったようにいかないわけです。こういう線を描いたのにこの辺を行ったり、あの辺を行ったりするのです。これをどうしたらいいかなぁと考えました。そこで発想を変えたんです。横山さんが歩いた後に道を作ればいいのだと。こういう風に思えるようになってから気持ちがすごく楽になりました。

―木村さんはそういった「逆転の発想」を実践されていらっしゃいますし、よく本やHPなどにも書いていらっしゃいますが、そのような発想というのは、どういうところから生まれてくるのでしょうか?
ヘソが曲がっているのかもしれません(笑)。みんなが行くところが嫌なんです。多数派につくのが嫌。かといって、別に信念があるわけではないですが、昔から「本当にそれでいいのかなぁ」と常に考えるようなところはあります。みんなが賛成すると、「ちょっと違うんじゃないか」とか、思う癖があります。
会社の中では、上司にとっては非常にやりにくい部下だったかもしれません。「はい、はい」と返事していながら全然やっていないこともありましたから (笑)。


―今の時代どんな「発想の転換」が必要なのでしょうか?

今まではマーケットが右肩上がりできていましたから、横並びの一直線でよかったんです。答えが見えていましたから、そこに向かって一致団結していればよかったんです。どちらかというと、オペレーションエクセレンスだけ追求していればよかったんです。ところがマーケットが飽和してきて、そのうえ日本は人口が減っていきます。

2006年あたりから人口が毎年60万人ずつ減ります。つまり、毎年浜松市が1個分なくなるんです。高齢化もしていきます。そうすると国内のマーケットというのはそれほど右肩上がりにはいかない飽和状態、成熟状態に入っていきます。そんな時に今までの右肩上がりを前提としたシステムでやっていたら、当然どこかで破綻します。ですから量とか大きさを求めるのではなく、もっと質を求めるという風に転換していかないとやっていけなくなるでしょう。
ところが、世の中のシステムというのは、未だに右肩上がりを前提とした、前年比何%プラス〜ということで、上の命令をひたすら忠実にオペレーションする人間を抜擢するようなシステムで流れています。さすがに、もう変わらなければならないですよね。

吉本興業にいたときに今のままではいけない、ということで「新喜劇やめよッカナキャンペーン」というのをやったことがあります。それは、吉本という組織が硬直化していたのを蘇らせるショック療法です。ただし、「やめます」ではなく「やめよッカナ」です。新喜劇のメンバーはかなり不安になっていたでしょう。
でも、これは、かなりの効果がありました。
人間、危機感を持っておかないとダメなんです。20世紀というのは、モノを増やしていくということでしたから、プラスでモノを考えてきました。これからはマイナスで考えていくという、進化論ではなく退化論です(笑)。これを考えなくてはいけない分水嶺がこの21世紀だと思います。何を減らして成長していくか、引き算型の成長論です。人間のキャパシティは限られているわけですから、無限にモノが入るわけではありません。ですから、何かを捨てないとダメなんです。

西武の堤さんやダイエーの中内さんなど、ある時期非常に名経営者、カリスマのような評価をされた人たちが、ここにきて急速にそのポジションを失っています。ということはやはり彼らが、賞味期限切れになっているのに気づかずに、まだそのマインドを持ち続けた結果だと思います。彼らがもっと世の中に対してセンシティブで、謙虚であれば、次世代にポジションを渡したと思います。けれども、ついつい、偉くなってしまうと、そういうところがわからなくなるのでしょう。ですから、今の時代、偉くなるとやばいですよ。本当に謙虚に真摯に生きていないとダメだと思います。