成竹を胸中に得

ものごとを始めるに先立ち、十分に腹案を練り、全体の完成図を頭のなかに措いてからスタートすることで、一気に仕上げられるものです。

  蘇軾(別称、蘇東坡は康守入家の一人として知られ、「赤壁賦」などの有名な詩歌をつくっています。その文面は「竹を画くに、必ず成竹を胸中に得て」からスタートしなければいけないことと、「筆をとったらよく対象を見て一気に画き上げてしまうのがよい」と述べています。彼が竹を水墨絵で描いた名品は、古今の傑作とされています。

 絵を描くという技術は、本来は人間の本性から生れたのでしょうが、中国では古代から逸品を多数残しているのみならず、水墨画では独特の技法を発達させました。
 したがって、蘇軾の言葉はそれだけの重みがあると受け取ってよろしいのではないでしょうか。

 主旨としては絵を描く前に十分腹案を練り、頭の中でしっかりと描き上げ、完成図が浮んでから一気に筆を足らせるということに集約されます。
 これは、絵の技法として述べられたものですが、ビジネスにおいても、人生航路のなかでのいろいろの事業を進める上でも応用できることだといえます。

 趣味の世界のなかで広範囲に愛好されるのが絵画でしょう。ビジネスで功なり名とげたような著名人が、油絵の勉強をはじめ、だんだん腕を上げて、一流の展覧会に入選したりするケースをよく見開します。日曜画家展など同好会のイベント会場へ行ってみますと、くろうとはだしの名作をものにしておられる方もいます。
 しかし、あまり上手になりすぎて、天狗になってしまうのはいただけません。やたらに、絵を人に贈呈するのも迷惑なものですし、画面の大きさ一号いくらというような値段がついてくると、得意先や関係者が画商から買上げるようになるのは鼻じらむ思いがします。著名財界人であればあるほど自戒して、せいぜい個展位で我慢し、自分の家で楽しむ程度がよろしいでしょう。

 水墨絵は、奥が深いと同時に、素人が素晴らしい作品を生むことがままあります。これは俳画のジャンルでも同じで、水彩画の会に参加してみますと、無心に筆を運ばせているご婦人が、先生のびっくりするような絵をかくことがあります。作画を楽しむということを本旨にして、人生のプラスにしたいものです。

 この成語は前述したように水墨画を描くための注意事項として引用されるだけでなく、よく計画を練って、自分自身の胸のなかでおさまるようにすることが、人生を送る上での大切な手段であるという教えに使われます。
「他人がやっているから……」というように、自分の行動を決めるのでは、万事に失敗に直結しかねませんから注意したいものです。
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