第10回 “江戸商人を真似ぶ、学ぶ”

「江戸しぐさ」、どこかで聞いたことがあるでしょう。近頃、新聞などで連載され、その知名度も上がってきました。“肩引き”(往来を歩いているとき、人にぶつからないようにすれ違うとき肩を引く)“傘かしげ”(雨のとき、雫が相手にかからないように傘を反対側にかしげる)など、マナーと認識されているようです。もちろん、これも江戸しぐさ。ぶつかっても何も言わないこのご時勢、忘れてはいけないマナーです。
もともと江戸しぐさは、江戸思草と書き、所作というより考え方に近かった。実はこの考え方が、江戸を江戸の町を、260年もの間、繁栄させた大きな要因になっていたのです。
当時は、江戸幕府が行政に忙殺されていたため、町人の住むエリアはその自治を町方に任せていたということも見逃せない事実でした。
江戸の町は、ほとんどの家が商売をしていたため、ひとつの経済社会を形成していました。そこで町方の衆は、いつも集まっては話し合いを持っていたそうです。それが、講。そこに車座に座って話をしていたので講座と呼ばれていたのです。講座の原点ですね。
その目的は、共倒れをしないこと。一人勝ちを極度に恐れていました。競争が激しくなれば、みんなで築いた町が崩壊してしまうかもしれないからです。
江戸の町民は、共生ということを何よりも重要視していたのです。誰一人落ちこぼれず、みんなで楽しく幸せに生きる。それこそが、江戸のビジョンだったのです。
江戸というと、「粋」と思いますが、実は「生き生き」や「意気が合う」の「いき」、が正しかったようです。それが、前述の他人との接し方のマナーとして定着していたのでしょう。
そして、この共生というビジョンを達成するための方法論が、尊異論というもの。つまり、すべての人は違う、だからこそ尊重する。江戸時代の町民はこんなすごいことを考えて実践していたのです。
このことはコミュニケーションのやり方に顕著に現れていました。
「三脱の教え」。初対面の人と会うときのルールですが、年齢、職業、地位を絶対に聞かない。おわかりのように、いきなり社長の名刺を出されたらかしこまって本音が言えなくなってしまいます。これを実践していた。いまでは、とうてい考えられないことです。いかに、いまのビジネスマンは会社や肩書きに依存しているかと思うとゾッとしてしまいますね。
同じように、講の集まりでも、ニックネームを使って、誰でもが気楽にどんな意見でも言えるような雰囲気を作っていた。今で言うブレーンストーミングがすでに江戸の町で行われていたのです。私たちの先祖はすごかった!その一言です。
このようにみんなの前で自由に話し合うということが重要視されていたので、寺子屋でも読み書きそろばんはあくまでも基礎で、大事なことは「見る聞く話す」がいかにできるようになるかに教えの重点を置いていたようです。
いま最も必要とされている、コミュニケーション能力。すでに、江戸時代の商人は経済社会を維持発展させるためにはとても大事なこととして実践していたのです。
人を社会の基準に合わせて評価するのではなく、人はみんな違うからそれを尊重する。「江戸しぐさ」は、現代人にたくさんのことを教えてくれています。あとは、実践するかしないか。さあ、どうしますか?
江戸しぐさ語り部の会主宰の越川禮子さんの本やお話を聞いて江戸町人の素晴らしさを発見しました。これは、私が常々思っている「チーム」の考え方の近いと感じました。拙書「ある日、ボスがガイジンになったら!?」のチームの法則(188ページ)をご覧いただければ幸いです。



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