第5回:ウィンブルドン化とイギリスモデル

 イギリスが発祥の地のスポーツはたくさんあります。サッカー、ラグビー、ゴルフ、日本ではあまりなじみのないクリケット、乗馬などです。テニスもそのうちの一つです。ウィンブルドンで毎年6月末に開かれる全英オープンは、四大大会のうちでもっとも重要だとされています。高校球児にとっての甲子園、大相撲にとっての国技館、あるいはヨン様ファンにとっての南怡島です。聖地なのです。

 ただ、イギリス人はこの聖地で活躍していません。ウィンブルドンで、1969年にジョーンズが女子シングルスで優勝して以来、優勝から遠ざかっているのです。男子シングルスは、1938年以来優勝がないのです。ウィンブルドンで活躍しているテニスプレーヤーは外国選手なのです。これは、ウィンブルドン現象と呼ばれています。

 ウィンブルドン現象はテニスに限ったことではありません。ゴルフを見ても同じです。全英オープンでイギリス人が優勝したのは、また、これはスポーツに限ったことではありません。ロンドン・シティの金融街でも活躍するのは外国企業です。大学でもウィンブルドン化は進んでいます。LSEでは、修士課程の7割が留学生です。

イギリス人は残り3割。マイノリティです。博士課程に進むとイギリス人の割合は少し増えますが、それでも5割です。半分は留学生なのです。アメリカも留学生の数は多いですが、ここまでの比率ではありません。病院にいけば、インド系の先生が多くでてきます。もちろん、ウィンブルドン化は、日本でも進行しつつあります。大相撲ではハワイやモンゴル出身だけでなく、ヨーロッパ出身の力士が活躍しだしています。ただ、日本よりもイギリスの方がいろいろなところで起こっているのです。

 ウィンブルドン化するのにはいろいろな理由があるでしょう。イギリスの産業の競争力がなくなっていることや、移民を多く受け入れていることは大きな理由でしょう。また、EUの存在もあります。ただし、一番の理由は、イギリスの「場」ということについての考え方でしょう。ウィンブルドンでもゴルフの全英オープンにしても、金融街のシティーにしても、そこには一流のプレーヤーが集まっているのです。実際にプレーしているのがイギリス人でなくとも、「場」がそこにあるのです。「場」さえあれば、一流のプレーが見られます。多くの企業がビジネスをしにくるのです。

日本は少子化が進んでいます。労働人口が減っています。もしも、産業の競争力が落ち、いまのまま人口がどんどん減っていけば、今の経済の水準を保つのさえも難しくなってきます。どのように「場」を用意するかは大きな問題です。ただ、イギリスを見てみると、「場」をつくるのもなかなか簡単ではないようです。(来月は「ウィンブルドン化とイギリスモデル(2)」として、続きを書きたいと思います。) 
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