第20回:フットボールではもてない
いよいよワールドカップです。エースがケガをしてしまったものの、イングランドはひさびさに上位が狙える良いチームらしく、地元の期待は高まっています。イングランドの旗をなびかせた車が街中を走っています。今月はサッカー事情について気がついたことを書きたいと思います。サッカーは世界的な人気スポーツですが、各国それぞれ少しずつ違いがありそうです。

アメリカでは、サッカーは「女・子供」のするスポーツです。アメリカでワールドカップが開かれたことすら知らない人が多いのです。「あ。そんな世界大会あったの?」なんて扱いです。一応、プロのサッカーリーグは最近できました。

ただ、その事実すら知らない人が多く、人気はやはり、野球、アメフト、バスケットの3大スポーツの足元にも及びません。
イギリスには100年を超えるプロサッカーの歴史があります。サッカー(イギリスでは、サッカーではなくフットボールと呼ばれています)発祥の地のイギリスでは、さすがに最も人気のある大衆スポーツです。そして、日本のサッカーとイギリスのサッカーを見ていて気が付くのが、観客の違いです。

イギリスではサッカーを見ている人はだいたい3つぐらいのグループに分けられます。一番多いのは、訳の分からないタトゥーの入ったいかついお兄ちゃんたちです。昼間は工具や鉄の棒などを担いでいる人たちです。次に多いのは、F○CK!などのスウェアーワード(罵声・罵倒)を大声で言いたいだけのお兄ちゃん・お姉ちゃんたちです。彼らはサッカーを見ているというよりも、ビールを飲んで、ひたすらFワードを叫んでいます。勝つと喜んでビールのビンを投げ、負けると審判と相手選手を罵りながらビールのビンを投げる人々です。酔っぱらって、いたるところにオシッコをしちゃうのも彼らです。最後のグループは、サッカー好きのおじいちゃんたちです。根っからの地元のファンで、パブの隅っこの方に生息しています。騒ぐこともなく、じっと観戦しているので、生きているのかも分からないぐらいです。日本のファンは、若く、礼儀正しく、女性が多いように感じます。また、ガテン系の職業の男性にファンが集中しているイギリスに対して、日本はいろいろな人が一緒に仲良く応援している感じがします。

 また、ヨーロッパのサッカーの人気も日本とこちらとではかなり温度差があります。中田や稲本など日本人プレイヤーもくるようになって、日本ではヨーロッパのサッカーのリーグもかなりメジャーになってきたようです。海外サッカーファンも増えています。
ただ、実際にヨーロッパのサッカーリーグを見てみると、実は人気は落ちてきているのです。イギリスのプロリーグのプレミアリーグの観客動員数はどんどん落ちています。イギリスだけではありません。スペインもドイツも、ヨーロッパのどこの国もサッカーの観客動員数は落ち込んでいるのです。
もちろん、バルセロナやレアル、アーセナルやチェルシーなどといった人気クラブのチケットをとるのは大変です。ただ、プレミアシップ全体でみると、満員になる試合は全体の半分もないのです。がらがらに空いたスタジアムも珍しくありません。テレビで放映される時に、観客席がガラガラだとテレビ映りが悪いため、チケットの安売りをしているクラブもあるほどです。

 また、イギリスのサッカーは女性から敬遠されています。ベッカムが出てきて少し盛り返したのですが、女性に人気のあるプレイヤーがいません。嫌いなセレブランキングに登場するぐらい積極的に嫌われているプレイヤーもいるぐらいです。また、プレイヤーだけでなく、サッカーファンも女性から嫌われぎみです。「サッカーが好き」というのは、「知性がなく、野蛮で退屈」を意味し、女の子が一番デートしたくない人たちだと言われるようにまでなっています。この点では阪神ファンと同じかもしれません。「サッカーファンはサッカーのことしか話題がない」と思われているのです。日本では、サッカー好きで、少々のウンチクぐらいを語れれば、なんだかモテルかもしれません。これも日本とイギリスのファンの大きな違いです。


かつて、「サッカーは労働者階級の娯楽で、彼らが煮詰まらないように、大声で罵声・罵倒をさせて、彼らのガス抜きをするために、サッカーはあるんだ」と公言する政治家がいました。イギリスのパブなどに集まってサッカーを見る人を見ていると、本当にそんな感じがします。夜に試合があった次の日は、パブの周りにはそこらじゅうにビール瓶の破片が落ちているのです。

うらぶれオジサンたちに応援されている国と、若い女性のファンが多い国とでは、代表選手のモチベーションも変わってくるかもしれません。イングランドに必要なのは、女性ファンの力かもしれません。

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