第24回:イギリスのイヌ
大学がワサワサ落ち着かなくなっています。10月から新しい一年がまた始まるのです。キャンパスは新入生が溢れ、活気に満ちています。夜になると相変わらず街は酔っ払いでにぎわっています。

 今月はイギリスのイヌについて気が付いたことを書きたいと思います。イギリス人は、自分たちのことを「世界で一番、動物を愛する国民だ」と信じています。実際、動物愛護団体は多いです。駅前やポスターなど、いろいろなところで動物愛護を訴える活動を目にします。医薬品・化粧品に動物実験をしているかどうかを表示させようという運動もありました。動物実験に反対しているボディショップの創業者のアニータ・ロディックもイギリス人です。


欧米では心理カウンセリングは一般的ですが、イギリスにはイヌやネコの専門の心理カウンセラーもいます。日本人観光客とイスラム系のお金持ちに大人気のデパートのハロッズでは、ペットが結婚式をあげられます。

 イヌに対する思い入れは随分強いようです。まず、イヌを外で飼っている家は一軒もありません。イヌは家族なので、家の中にいるのが当然なのです。日本人が大きなイヌを買い、庭に犬小屋を建てて飼っていたところ、「虐待している」と警察に通報されてしまったという話もあります。イヌを外で飼うことは、虐待していることと同じなのです。子供が外でタバコを吸おうが、ビールを飲もうが、ひったくりをしようが警察に通報しないのですが、イヌが外で飼われているとすぐに通報されます。

 日本のペットショップでは多くのかわいいヨチヨチした子イヌを見ることができます。イギリスのペットショップではそもそもイヌは売られていません。生まれてからの何ヶ月間は、子犬にとって、母親や兄弟とコミュニケーションをとる大切な時期なので、小さなゲージに入れられて、いろいろな人から見られるという環境に置くのは良くないというのが理由だそうです。一番かわいいときにショーケースに入れて、どんどん売っていく日本とは大きな違いです。
 日本のイヌと比べると、イギリスのイヌはずいぶん賢そうです。こんなことを書くと「またまた、なんでも海外の方が良いって思っちゃって!」なんて言われそうですが、本当に彼らは賢そうなのですよ。多くのイヌはきちんとトレーニングを受けています。しかも、それは「イヌにしっかりと考えさせる」トレーニングだそうです。イギリスのトレーナーによると、日本の「しつけ」はまだまだ軍隊のようで、イヌに「考えさせる」というよりは、イヌを「反応させる」方式らしいです。

その辺を歩いているビール腹のおじちゃんやいつも半分オシリの出たジャージ姿のお兄ちゃんたちにはあまり知性は感じられませんが、そこらイヌたちはずいぶん頭が良さそうです。トレーニングの成果が出ているのかもしれません。リードを付けなくても、きちんと飼い主のとなりを歩きます。九九ぐらいはきちんと覚えているかもしれません。よたよたしている飼い主を心配そうに見ているイヌもいます。夜には酔っ払いの飼い主が、愛犬を散歩させながら、イヌよりも自分がそこらにオシッコをしていることも珍しくありません。イヌの方が分別がありそうです。

 イギリス人が本当に世界で一番動物を愛している国民なのかは分かりません。イヌは愛されていますが、羊は全然愛されていません。毎年、春先になると「子羊前線」というのがでてきます。これは日本の「さくら前線」と同じで南から北上してきます。春先になると子羊が生まれます。生後1ヶ月ぐらいの子羊が一番やわらかくて美味しいらしいのです。暖かくなると「子羊前線」がだんだん北上するわけです。その子羊たちはひどい状態でイギリス全国だけでなくフランスなどにも輸出されていくようです。寒いロンドンの動物園ではライオンたちが震えています。大切にされているのはイヌだけかもしれません。

 いずれにしても、うちでもずっとイヌを飼ってきましたが、明らかにイギリスで見るイヌの方が賢そうです。これは、子犬の時の過ごし方から来ているのかもしれませんし、情けない飼い主が多く、それが反面教師になって、イヌが賢くなっているのかもしれません。僕ではなくて、うちのイヌをイギリスに留学させた方が良かったかもしれません。
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