第30回:学会での流行り
 ロンドンは、サマータイムも始まり、ようやく暗くて寒い冬が終わり、明るくて過ごしやすいベストシーズンが始まろうとしています。そんなイギリスですが、春先は学会シーズンでもあります。日本の学会シーズンはだいたい秋口なのですが、アメリカやイギリスでは春先にも大きな学会が開かれます。今月は学会についてお届けします。

 一口に学会といっても、東京モーターショーのような大きな学会から、近所の町内会主催の骨董品フェア程度の本当に少人数の学会までさまざまです。日英米の大きな学会同士を比べると、出席者の背丈、体重、声の大きさ、食欲、人数のどれをとっても、アメリカ、イギリスのほうが大きいのです。

また、日本の学会には、ほぼ日本人しかいませんが、英米の学会にはいろいろな国の人が来ています。

どこの学会にも「懇親会」があります。ご飯でも食べて、一緒に飲んで、仲良くなろうというわけです。あまり仲良くなりたくない人と一緒にいるのは辛いので、ご飯を食べてごまかしているのかもしれません。この懇親会も日本とはずいぶん違います。日本では立食形式が主流です。リッチにホテルで行われる場合もあれば、学食で揚げ物・乾き物のオンパレードの立食パーティーということもあります。どこでやろうとも、立ち食い形式です。

他方、アメリカやイギリスでは必ずテーブルについて、きちんと前菜からサーブされるコース形式です。もちろん、美味しくはありませんが、立食形式よりも上品な感じがします。上品なのは良いのですが、となりに嫌な人が来てしまうと、デザートを食べ終わるまでの2時間ぐらいの間は逃げられないリスクはあります。学会の発表の時には短パン・Tシャツだった人も、このレセプション・ディナーにはドレスアップしてきます。

日米英の学会にはもちろん共通点もあります。学会長のスピーチが長い、本当はあまり出たくないのに出席を強いられている、人気のある女性の周りにおじさんたちは群がる、たいして発表を聞いていないなどは、学会の大きさや国を問わず、どこでも普遍的に見られるものです。

最後に、学会にも流行があります。プレゼンテーションの仕方や、データの見せ方などといった表面的な流行りから、使うデータの種類やその分析の仕方などの流行もあります。最近のアメリカやイギリスの経営学や経済学の学会で顕著になってきているのが、「日本ばなれ」です。

経営や経済といった分野では、実際の企業の活動や経済状況に、研究の関心は大きく左右されます。戦後、日本は高度経済成長を遂げ、ジャパン・ミラクルなんて言われてきました。そこで、経営学や経済学では日本の企業や産業、経済は大きな注目を集めてきました。日本の企業の分析や経済の仕組みについての研究は学会でも大きく取り上げられてきました。

たいした研究でなくてもわりと注目されたりもしたのです。1980年代から90年代前半にかけて、欧米の経営学では、日本の企業の研究が流行っていたのです。ただし、最近ではその面影はまるでありません。学会の関心は中国に移り、日本への関心は薄くなっています。本来、研究には、流行にのっているかどうかは、それほど重要ではないのですが、「流行にのってどさくさにまぎれて発表しちゃえ!」という僕の戦略はだんだん通じなくなってきているのです。
 
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