第35回:チャヴはカウンターカルチャーなのか?
さてさて、いよいよロンドンを去る日が近づいて来ました。レストランは高く、美味しくなく、オマケに量はアメリカよりもずっと少ない!天気はコロコロ変わるし、地下鉄は汚いし。こんなロンドンですが、住むほどに味がでてくる街でした。イヌは賢いし、いつも芝生は緑だし、人々の多くは辛抱強い紳士・淑女です。ビールも美味しい。

フィッシュ・アンド・チップスやビックベン、タワーブリッジなどで有名なロンドンですが、カウンター・カルチャーの本場でもあります。ビートルズやローリング・ストーンズ、ザ・フー、ストラングラーズや、セックス・ピストルズなどなど数え切れない数のロックやパンクバンドが出て来ました。『時計仕掛けのオレンジ』に代表されるようなモッズなどがありました。反体制的なエネルギッシュなムーブメントがでてきた街でもありました。

 カウンター・カルチャーは、階級文化に代表されるようなある種の人はそこにはどうやっても入っていけないような文化があるときに生まれてきます。イギリスでは、これまで社会の階級が違えばまるで文化も違ってきました。

上流階級は、教養たっぷりで、シーズンにはフィールドで狩りをし、オペラやバレエを楽しむ人たちなのです。反対に、教養はなく、ビールを飲み、サッカーに熱を上げる人たちが、労働者階級の典型です。

しゃべる英語も飲むお酒も、読む本も楽しむスポーツも全然違うのです。そして、ケンブリッジやオックスフォードに行こうが、どんなにお金持ちになろうが、上流階級にはなれないのです。このような排他的な文化が一方にあるからこそ、それに対するカウンター・カルチャーが生まれてきます。むしろ、そのようなある種の排他的な文化がないと、パワーに満ちたカウンター・カルチャーは生まれないわけです。

 最近、ロンドンで「チャヴ(Chav)」と呼ばれる人たちがひそかな注目を集めています。彼らは、10代の若者で、基本的にスポーツウェアを着ています。バーバリーチェックのものを身につけ、野球キャップをかぶり、さらにパーカーのフードをかぶります。そして、ブルドックやドーベルマンなどの怖そうなイヌをつれていれば完全なチャヴです。チャヴは他のチャヴ以外にはまったく関心を示しません。彼らこそが次世代のカウンター・カルチャーの旗手ではないかといってひそかに注目されているのです。2004年にはその年の流行語大賞にも選ばれました。

 ただ、そもそも「チャヴ」という名は自分たちで名乗っているのではなく、ロンドンの社会学者たちが付けた名前です。さらに、どうやら、彼らは何かに対する憤りや怒りを感じているようでも、なんらかのムーブメントを創ってやろうとしているわけでもなさそうです。単に、寒いのだけど、上着がないからフードをかぶっているだけかもしれません。やることないからその辺をうろうろしているだけなのです。

 豊かな中産階級がでてくることで、イギリスの階級社会も徐々に変ろうとしています。上流階級の人たちは大衆化し、労働者階級がどんどんリッチになってきています。排他的で抑圧的な文化は隅に追いやられ、みんなが楽しめる、みんなに開かれた文化が花開いています。その結果、カウンターするものがほとんどなくなってきています。

ロックバンドの歌詞も恋愛モノばかりになり、社会に対する怒りや憤りを表現したものはどんどん少なくなっています。チャブぐらいでカウンター・カルチャーなどと言っているわけですから、もうかつてのようなカウンター・カルチャーは生まれる余地がなくなってきているのかもしれません。ロンドンのライブハウスでは多くの若いバンドが毎晩のようにギグをやっています。ただ、ロックが「体制に対する反抗」であるためには、実は体制の文化がしっかりとしていないといけないのです。階級社会が良いとは思いませんが、排他的な文化があるからこそ、でてくるパワフルな文化もあるわけです。チャヴがカウンター・カルチャーの旗手ではちょっと寂しいです。
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