#08
The purpose is to provide learners with basic knowledge and
questioning skills. The primary focus is on enhancing the logical thinking powers necessary for developing logical questioning skills.




「人が賢明かどうか、その質問の仕方で分かる」
                         -----ナギブ・マフフーズ

質問力で、本質を見極める力を身につける!

以前、飲食サービス会社の業務を分析したことがある。その会社の社長は、割引チケットを新たに導入し、顧客が2倍に増えて「大成功だ」と喜んでいた。
本来であれば、どれだけ売り上げの変化があり、どれだけの経費がかかり、どれだけ純利益が増えたのかを分析して、その結果はじめて「成功」といえる。ところが、この会社の社長は、「顧客が増えた=成功」ととらえることによって、「純利益」が増えていないのに「成功」と思い込んでしまっていた。このようなミスを防ぐのに有効な質問力を考えてみよう。
「会社にとって、成功とは何でしょうか?」
「会社にとって、どうなれば成功といえますか?」
これでいい。これで、「顧客の数を増やす」というのが成功なのか、「純利益を最大限に上げる」のが成功なのかが分かってくる。もし、「顧客の数を増やす」というのが答えというのならば、次のような質問でさらに聞けるようにしたい。
「さきほど、会社にとっての成功とは『顧客の数を増やす』ことだとお聞きしましたが、そのほかに考慮すべき点はないのでしょうか?」
「さきほど、会社にとっての成功とは『顧客の数を増やす』ことだとおっしゃいましたが、純利益を削ってでも顧客を増やそうとお考えですか?」
このような質問ができれば、「顧客の数を増やす」ことが本当の目標なのか、それとも、あくまで純利益を上げるための二次的な目標に過ぎないのかが見えてくる。質問してこそ、会社の成功の意味を掘り下げることができるといえる。
結局、ここで紹介した飲食サービス店は、「割引チケットで成功した」と考えていたのにもかかわらず、経営不振に陥ってしまったのである。

成功とは、非常にあいまいな言葉であり、そもそも言葉というもの自体があいまいですらある。上記の例のように、本質をしっかり考えないと、二次的なゴールを目的と取り違えてしまうことになる。成功の意味を取り違え、二次的なゴールを最高のものだと勘違いしてしまうことになる。的確な質問力があったなら、十分に乗り切れたはずだ。
質問をすることなく、人の言うことを安易に受け入れる体質は改め、いつも自分でもう一度吟味するような癖をつけることが必要なのだ。

もう一例考えてみよう。ある金融関係の会社で、Tさんのケースを紹介したい。
Tさんはある部署の責任者だ。Tさんは仕事がよくできるタイプ。扱う仕事をすべて自分で知っている。その知識たるや右にでるものはいない。朝早く来ては仕事に取り掛かり、仕事が終わるのはいつも12時を過ぎる。会社で一番仕事をすることで評判である。本人も一番仕事をしているというプライドがある。周りの人には「会社で一番仕事ができる人」といううわさだ。ところが、Tさんの会社からの評価は「会社で一番仕事ができる人」ではない。なぜだろうか。Tさんの会社でのポジションは、責任者のポジションで、10人の部下を抱えている。その部下たちの管理がおろそかになってしまっている。そこが問題視されているのだ。
Tさんにとっては、仕事に「一番時間をかける人」が「会社で一番仕事ができる人」らしい。だが、会社にとっては、「会社で一番仕事ができる人」とは、「与えられた仕事をもっとも全うできる人」がそれに当たる。Tさんの仕事は、10人の部下を管理し、効率よく動かすことがそれに当たるわけだ。仕事の理解にTさん本人と会社との間にギャップが生じている。ここが誤解の原因なのである。
ここでTさんに質問力があったなら、問題は簡単に解決できる。「会社にとって、仕事ができる人とはどういう人でしょうか?」「会社にとって、どうなれば仕事ができる人といえますか?」「会社は私にどのようなことを望んでいますか?」このような質問があれば、Tさんは自己流で仕事をすることなく、会社の仕事を全うできたはずだ。

自分が何をもってその仕事をしているのか。今あなたが考えているゴールは本当に正しいだろうか。自分が勝手にゴールだと決め込んでいるとすれば、それは間違っている可能性がある。上にしめしたように、会社での目標は1つとは限らない。二次的な目標や三次的な目標があることも珍しくはない。
その中で、自分が考える目標が正しいといえるだろうか。それを見極めるには、質問をするしかない。「会社にとって、○○はどういうことでしょうか?」「会社にとって、どうなれば○○といえますか?」このような質問があれば、まず、第一の目標が分かってくる。
そして次に、二次目標も注意しておく必要がある。
「さきほど会社にとっての○○とは『○○○』ことだとおっしゃいましたが、○○をさしおいても、そのようにお考えですか?」
「さきほど、会社にとっての○○とは『○○○』ことだとおっしゃいましたが、○○の点についてはどうなのでしょうか?」
「さきほど、会社にとっての○○とは『○○○』ことだとおっしゃいましたが、その次に大切な目標はありますか?」
このような質問があれば、二次的な目標の位置を理解できる。

「目標」は大切である。ただし枝葉末節に惑わされることなく、本質を見据えたうえでの目標である。どの目標が最大の目標で、どの目標が二次的なものなのか、常に意識しておく必要がある。
ビジネスの世界で、目標の順序を間違えると、結果がまったく違ってくる危険性がある。質問力で、常に目標を明確にし、その順位を理解していなければ、あなたの行為はまったく無意味になることもあるのだ。



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