某シンクタンクで活躍中のM氏が発信する
人事教育ウォッチング、“MM,05”。今月は人材の話。
バブル崩壊後、日本企業は成果主義、といった単一の考え方に踊らされた観があるが・・・・。
日本の人口が減少に転じた。これに連動して労働人口が減少し、高齢化が進む。会社にとって「人材マネジメント」というミッションの重要性が高まるのは間違いない。

人材と一口に言っても、ここ数年で意味するところは大きく変わった。女性の社会進出、雇用形態の多様化、経験者採用のよる即戦力確保など、かつての人材の確保といえば、新卒・男子中心・正社員の採用であったが、昨今は大企業においても、この様な同質性の高い集団で人材を考えることは難しくなくなってきている。

上記の傾向はどの程度進むのであろうか。公共、民間の各種調査機関がはじき出した統計を概観すると、今後以下の傾向が強まると言えそうである。
・ 若年労働者の減少。24歳以下の労働者は2000年の10%前後から、2005年には8%程度までに減少。数すると750万人から560万人程度までに減少する。
・ 女性の社会進出。2010年には女性の労働者が確実に50%を超える。雇用形態では正社員、職種としては、管理職やいわゆるプロフェッショナルと呼ばれる人達が増加する。
・ 非正規雇用の増加。2010年には3割近くの労働者がパート、契約、派遣といった非正規の雇用形態によって就業する。
・ 高齢者雇用の増加。2010年には全体の一割前後が60歳超の雇用者となる。
・ 賃金格差の増大。個人間、同一業種の企業間での賃金格差は増大する傾向にある。一方、非正規・正規による差、及び男女の賃金格差は是正される。
この様に、人材の多様化は間違いなく進む。それは企業にとって、これまで前提としてきた採用、育成、評価、処遇等の各内部システムの変更を迫ることとなろう。これまでややもすれば単一の価値観に属すると見做されてきた人材を前提とした仕組みは、「各社のおかれた状況」にあわせて見直す必要がでてくる。

ここで「各社のおかれた状況」を強調するのは、必ずしも一つの正解があるわけではないからである。多様化という性質上、正解は無限に在り得る。バブル崩壊後、日本企業は成果主義、といった単一の考え方に踊らされた観がある。
成果主義について言えば、総人件費の抑制という部分最適には有効であったかもしれないが、信賞必罰による動機づけの向上や、会社への忠誠心の強化といった点では大きな課題を残した。単一価値観の労働者を前提とした全国共通の答えは既になかったのである。

次回の連載からは、こうした背景を踏まえて、今後「各社のおかれた状況」にあわせた各種制度はどう考えるべきかについて論じるが、その際に筆者が前提としたいことがある。それは「働く者と企業との信頼関係」ということである。

米国が80年代後半か90年代初頭にかけて、それまでの厚生資本主義的スタンスを全面的に放棄し、大胆な雇用調整を行った。米国企業といえばリストラ当たり前というイメージが一般的であるが、雇用を蔑ろにしてまで業績に執着する経営者が評価される様になったのは、実は80年代のグローバリゼーションが進展以降のことである。当然ながら、働く者と企業との信頼関係はこの時点で大きく崩れた。

日本の過去15年を振り返ると、アメリカ企業同様に、それまでの厚遇に手のひらを返す様なことも多かったが、その功績を称えられた経営者はいなかった。経営も社員も同じく苦杯をなめたのである。そして景気回復に目処がついた今、いよいよ経営の真価が問われる時代となった。ここで資本の論理、またはえたいの知れぬクローバリゼーションの名の下に、働く者をおきざりにする様な経営がなされてはいけない。

経営と労働者の信頼関係によって日本企業は支えられてきた。多様化の進行は、この信頼関係の構築においても多くの課題を投げかけることであろうが、これこそが、日本企業が最も尊ぶべき資産であると考える。米国の人材マネジメントは多様性のという観点からも日本に適用できる面はあるだろう。しかし安易なものものまねは禁物である。

重要なのは、顧客の声を持って会社を変える様に、多様な従業員の立場から会社を作ることである。成果主義導入時に散見された安易な妥協や見せかけの大義名分ではなく、真摯な対話が経営と労働者の間に求められる。


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