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清水:日本の企業の話をしましょう。日本の企業は競争力を失っていますね・・・

シーリグ:それそれ! 今日は日本に来て2日目なのですけど、みんなそれを言うのです。『日本企業は国際競争力を失っている』 『どうしたら良いのだろう』って。
私には、人々が語るそのストーリーが問題だと思います。もしも、みんながそれを言い続けたらどうなると思いますか? それが現実になるのです。日本は負けてきているとみんな思っているのですか? 
時代の感覚として、日本はその競争力を失いつつあるという意識が醸成されてきているようですね。まるで、私の本が売れたのは、日本の経済が上手くいかず、社会に出た若い人が多くの機会には恵まれないと感じているからだという気もします。どう思いますか?

清水:難しい問題ですね。ただ、本は、今とは違う考え方を提示してくれていますね。

シーリグ:面白いことがあります。アメリカの経済が不調だったとき、実はスタンフォードでは学生がたくさんのベンチャーを生んだのです。経済が不調だからこそ、ベンチャーが生まれたわけです。

20歳のときに知っておきたかったこと
スタンフォード大学集中講義
著者:ティナ・シーリグ
出版社: 阪急コミュニケーションズ
清水:経済が不調になって、学生が大企業志向になっている日本とは反対の方向ですね。

シーリグ:そうですね。これはとても面白い。リスクを考えてみてください。大企業に入るリスクと、自分で会社を立ち上げるリスク。どちらが高いですか? これまでは自分で会社を立ち上げるリスクはとても高かったのですが、それが今ではかなり小さくなっています。また、大企業に入ったとしても、その仕事を失うリスクは高くなってきています。つまり、自分でスタートアップするのと、大きな組織に入ることを、リスクという観点から比べると、ほとんど変わらなくなってきたのですね。

清水:でも、スタンフォードと日本では逆の動きですね。

シーリグ:ポイントは、ロールモデルだと思います。アメリカには、自分で企業を立ち上げて成功したロールモデルがたくさんあります。もちろん、スタートアップで失敗した人もたくさんいるわけですが、社会に成功したロールモデルがあるからこそ、たくさんの人がチャレンジするのです。ポイントは、スタートアップしようとするときに、実際に具体的なロールモデルがあるかどうかです。日本では、人々はどうしても失敗を怖がってしまうようです。失敗することを恥だと感じてしまうようです。失敗は恥ずかしいことだと思いますか?

清水:そうですね。そう思う人は多いようですね。

シーリグ:それは私にはなかなか理解出来ないですね。おそらくそういう文化なのかもしれません。例えば、ここに来る途中、日本人の友人と話していたのです。彼女には、2歳の娘がいます。『2歳の娘は、失敗することを恥ずかしいと思っている?』と聞いたところ、もちろん答えは『No』です。2歳の子どもは、自分のやりたいようにやるのです。失敗もなにも恥ずかしいと思っていません。つまり、ある時から「失敗すると恥ずかしい」と思うようになってきてしまうのです。何歳ぐらいから恥ずかしいと思うようになってくるのですか?

清水:中学生ぐらいからでしょうか。

シーリグ:だんだん学習してしまうわけです。これは大きな問題です。だれだって、人から批判されたり、バカにされたりするようなことはやろうとは思いません。これは、チャレンジすることへの大きな障壁となってしまいますね。

シーリグ:日本の文化は古く、歴史に根ざしており、尊敬されるべきものです。これに対して、カリフォルニアにはそういった古い、歴史のある文化はありません。多様なバックグラウンドを持った人々が、いろいろなところからきています。中国やメキシコ、ドイツ、チリ・・・本当にいろいろなところから人が集まっています。道徳や倫理、文化などは本当に多様です。そういうところでは、人々はみな違い、同じであることはほとんどありません。日本は、まだ多様性が少ないため、「失敗したら恥ずかしい」という固定観念がなかなかとれないのかもしれませんね。

シーリグ:本を出版してから手紙をたくさんいただくようになりました。そこには、日本からの手紙も多いのです。そして、興味深いのは、日本からの手紙のメッセージは、本から大きなインスピレーションはもらったけれども、『私は何をしていいか分からない』というものなのです。今の生活はなんとか変えたいと思っているものの、どうやって良いか分からないというメッセージが本当に多いのです。