米国大統領官邸ホワイトハウスからラフャヤット・スクウェアーを横切って三ブロック北に歩くとKストリートにぶつかる。東西に走るこの通り沿いにはロビー活動にかかわる会社が立ち並び、「Kストリート」は「ロビー活動」の意味で使われているほどだ。ロビーストのメッカとも言える。

諸々の政策の作成や変更を目的に行われるロビー活動は、議会、政党、政府との深い関係なしにはありえない。従って、政治の中心ワシントンには、全米ライフル協会から全国レストラン協会まで、ほとんど全ての業種・分野を代表するロビーストたちの一大集団がある。何千という協会が存在する一方で、国内外の大手企業の中にはワシントンに自ら事務所を開設し独自のロビー活動を行っているところもある。登録済みのロビーストは約三万人いると言われているが、非営利団体等も含めれば、広義のロビー活動には相当数の人がかかわっていることになる。
またロビー活動費は2003年が24億ドル、2004年には30億ドルを超えると予想されているから、経済面でもワシントンにおけるKストリートの存在は大きい。ちなみに、ロビーストの受け取る報酬は、経験を積めば法律事務所のパートナー(共同経営者)並み、あるいはそれ以上にもなるという。ちゃんとしたプロフェッションで、ワシントン近郊の大学には、ロビー活動をテーマにしたコースも存在する。

にもかかわらず、ロビーストと聞くとなぜか暗いイメージしか思い浮かばないのは、彼等と政治家を巡るスキャンダルが後を絶たず、メディアに悪者扱いされるケースが多いからだろう。最近も、某大物政治家とロビーストのスキャンダルがトップ記事として報道され、政治家のみならずロビーストのイメージが更に傷ついてしまった。

しかし、米国政治はロビーストなくして機能しない。「The Fourth Branch of Government」と呼ばれるほどの大きな力を持ち、大事な役割を果たしているのがKストリートの住人たちなのだ。

かつてエレクトロニクス業界を代表して活躍したある女性ロビーストは、国会議員や官僚が法案作りに必要な専門知識を必ずしも持ち合わせていないことを指摘しながら、そこにロビーストの活躍の場があると話してくれた。特定企業・業界を代表して、国会議員や政府関係者にあの手この手で働きかけるロビーストは、その業界・分野のことを熟知している。それ故、法案を国会議員に代わって作成することもあるし、議員スタッフからは懸案事項についての問い合わせ電話もよくかかってくる。

だから、ロビーストというのは一種のサービス業者だ。法律で規制される側と規制する側とをつなぐ仲介者のような存在で、双方が必要としているサービスをその時々のニーズに合わせて提供するのが彼等の仕事となる。

とすれば、立法府や行政府に関する一般知識はもとより議会・政府関係者のどろどろした人間関係や他の様々な内部事情の把握もロビーストにとっては必要不可欠となる。いつどこで誰と何をしたら良いのかの判断ができるようになるためだ。

「ロビーストになろうと思ってロビーストになったわけではない。それに、ロビーストになろうと思ってなったロビーストを一人として知らない。ロビーストというのは、議会での仕事を終えてからなるものだ。」
連邦議会のスタッフとしての経験を持ち、共和党全国委員会委員長を務めたこともある著名なロビーストEdward W. Gillespie氏がワシントン・ポスト紙の記事の中で語っている言葉だ。ロビーストが必要とする知識や人脈は、議会での経験なしには得られないということだろう。上記の元女性ロビーストも、高校生のときにまず国会でインターンをし、その後ハワード=ベーカー元上院議員の下で働いたという。そして、この時の経験が彼女のロビーストとしての基盤となった。元議員、元官僚がロビースト会社を作ったり、ロビースト会社に歓迎されたりするのもそうした事情があってのことだ。

ただ、業界の専門知識を持ち、議会や政府機関での経験があるからといって、それで即、ロビーストとして成功できるわけでもないらしい。「自分の政治信条を持ち、自分の信条に合致する顧客を選んでロビー活動に励むこと」(元ロビースト)が大切だという。

米国の国内・外交政策を背後で操るKストリートには、そういう住人が多いに違いない。

Copyright by Atsushi Yuzawa 2005


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