――海外での勤務やお住まいの経験が、日本のオフィスの生産性を向上させようと思われたとのことでが、外国と日本の違いを、どんなところで感じましたか?
仕事に対する考え方でしょうか。たとえば、私は60歳になって引退しましたが、そこでヨーロッパの知人に会うと、みんな「コングラッチュレーション」と言ってくれます。「おめでとう」です。全員が全員「おめでとう」と言うのです。一方で、日本人からは「60歳で、まだお若いのに、そんなもったいない」と言われてしまう。

――日本人と外国人では仕事観が違うのでしょうね。

ヨーロッパ人にとって、お金を稼ぐために働くというのは、人生を楽しむためのお金を稼ぐために仕事をする、ということです。だから、海外では60歳まで働く人があまりいません。エリートであればあるほど、60歳以前で引退します。十分にお金がたまったから、あとは遊ぼうというわけです。一方で、日本人を見てください。みんな60歳を過ぎても引退しないで働くでしょう。しかもできるだけ長く。

――普段の仕事から取り組み方が違うのでしょうか?
ヨーロッパでは、基本的に残業はしません。そのうえ、年間6週間くらい休暇をとります。1週間の労働時間にしても、フランスなんて35時間です。それで「今週は仕方ないけど40時間働かなくてはいけない」ということになったら、休みが増えて、2か月か3か月も年間に休みをとらなければいけなくなる。「休みをとらなければいけない」と、その本人が言うのですよ。

――羨ましい話ですね。やはり、ヨーロッパにはそうした文化が根付いているのでしょうか。
ヨーロッパだけではありません。私が以前働いたことのある香港では、イギリスに倣ってやっているので、残業なんて習慣は全然ない。終業時間になれば、夕方の5時なら5時で、終わったら全員帰ります。無条件にです。休みだってちゃんととっていますよ。

――そうなのですね。では、こうして長い時間を仕事に使っているのは、日本だけなのでしょうか?
アメリカも、人生を仕事にかけている時間が多いようです。以前に、アメリカ人の知人に聞いたのですが、アメリカでは、“ワーク・フォー・ライフ(Work for life.)”か“リブ・フォー・ワーク(Live for work.)”か、どちらかだと言います。

――“人生のために働く”のか、“働くために生きる”のか。
彼はいわゆるエリートなのですが、リブ・フォー・ワークだと言いました。「働くために生きているんだ」と。実際に、1年間の休暇の数を聞いたなら、「7日、8日、9日…、これで最大限」と答えていました。生きるために働くのと、働くために生きるのと、その差を彼は話していました。そうした反省がアメリカの国内でも出てきており、そこでようやく、彼らは“ワークライフバランス”という言葉を使い始めたというわけです。それは、アメリカと同じように仕事をしている日本でも、当然のごとくやっていかなければなりません。 「ワークライフバランス」の「ライフ」のクオリティの問題を、日本人はもっと研究しなければならないと思います。

――仕事が忙しく、ライフにまで気を回すことができないのでは。残業も、仕事量が多くて、仕方なく行っているのかもしれません。
もちろん、そうした部分もあるでしょうけど、やはり無駄な残業は多いでしょう。たとえば、日本のホワイトカラーの作業は、非常に効率性が悪い。全世界のどこの数字と比較しても、悪いと言います。「日本人は、事務作業の行い方が悪い」とは、私が小さいころから言われていたことですが、これがいまだもって直されていません。そして、その効率が悪いのをそのままにして、残業でカバーしているのです。大手の会社では、1か月に240時間残業している人がいるということを聞いたことがあります。とんでもない話です。

――確かに、日本人は残業に対する意識が違うのかもしれません。美徳と考えているところもあるようです。
私だってそうです。残業していると、「僕は会社にとって良いことしているなー」と、一種の高揚感を感じて、自分だけが輝いているような気がするんです。だから、みんな残っているのですが、それはやってはいけないことです。もっと別のところに意識をむけないと。

――これを減らしていくにはどうしたらよいでしょうか?
日本人は、新しい流れができれば乗るけれど、流れを作らない限り難しい。だから、そういう大きな流れが出てこないといけないのでしょうね。会社のトップがそうした意識をもって、トップダウンで意識を徹底させていければ一番です。



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