世界を視野に入れたグローバルマインドを養成する
彼を知り己を知れば百戦殆からず―グローバル人材への道
2012年、新講座「GLOBAL BUSINESS SENSE&METHOD」が開講します。
本講座の著者、グローバル人事組織マネジメントコンサルタントの篠崎正芳さんにグローバル人材教育の現状についてお話しを伺いました。
Q-1 いま、ちょっとしたグローバル人材育成ブームを感じています。過去の日本には、誰に教えられることもなく世界の市場に果敢に挑戦したグローバルな大先輩たちがいましたが、今の日本はグローバルに対応できる人材が少なくなってしまったということでしょうか?

 確かに過去と比べると少なくなってきているような「感じ」はしますが、絶対数が激減しているとは思いませんし、そこまで悲観的に考えるのはどうかな? 
と思います。過去と比べて今は、日本企業の海外拠点の展開範囲がとても広くなっています。バブル崩壊後の日本経済の停滞の流れの中で、生産拠点の海外展開が加速し、過去10年は中国進出の加速が激化しました。
販売拠点もかつては欧米先進国が中心でしたが、今や、著しい経済成長を遂げている新興国での展開が加速化しています。そうすると、成長の鈍化した日本企業社会から海外に出ていく日本人駐在員の数が増えるのは当然です。つまり、グローバル対応しなければいけないパイが増えているのに、実際のところ、対応できる人材の絶対数がともなっていないことから、「対応できている感」が低いというのが実情ではないかと思います。大先輩(特に団塊世代)たちの時代は、日本自体が発展途上でしたので、欧米に追い付け追い越せのスローガンのもと、一種のハングリー精神があったのは事実だと思います。さらに、海外志向の日本人には社内だけでなく、企業社会の中でも人材価値としての「プレミア感」がありました。また、海外に赴任しても、現地の言葉を勉強する時間的な余裕が随分ありましたので、今の海外駐在員はこの点、ちょっと気の毒ですね…。
 90年代後半から2000年以降はインターネットが劇的に普及したので、日本にいながら海外情報は瞬時にそして容易に取ることができます。しかし、昔は物理的に海外の現場に行かなければ情報を入手することができませんでした。そのため、大先輩たちの好奇心や行動の「質」は今と比べると大変パワフルだったと思います。

Q-2 そうした先輩方と比べて、我々世代は内向き志向になっているようにも思えますが、その原因とはどのようなことなのでしょうか?
 
 日本で企業活動を進める様々なリスクを考えると、外向き志向の人材を増やすことは企業の生命線と言ってもよいと思います。そのような状況の中で、統計的に内向き志向の人材が増えてきているのは悲しい現象です。ただ、この側面が少しクローズアップされすぎているようにも感じます。日本人はメディアや周囲の人の情報に敏感で、あまりよく調べず考えずに同調してしまう傾向があるので、悲観的なことをあまり煽りすぎるのは危険でしょうね。
 大先輩の時代と比べると今の日本は成熟してしまい、次の目標を見失っているように思います。人間は、目標を見失うとエネルギーが湧きません。そうすると、何かにチャレンジするのではなく、無難に日々を過ごすことの方が心理的に優先されてもおかしくありません。
日本の政治や行政が世界を視野に入れた日本の「未来図」、世界で戦い輝きリスペクトされる日本や日本人の「絵」を描くことができない中では、企業努力や個人努力に限界があっても仕方ありません。時間軸をさかのぼれば、企業教育の前に学校教育があるのですが、過去長年の事実をもとに考えると、世界で活躍できる日本人を育てる発想と教育実務に目に見える大きな変化が起きることは今後もあまり期待できないでしょう。
 一方で、日本企業社会での大先輩たちは海外進出のパイオニアです。自ら海外に出て儲かるビジネスモデルやオペレーションの仕組みを試行錯誤で作ってきました。日本経済も右肩上がりの成長過程でしたので、企業業績も好調で組織も拡大していたため、帰国すると、その貢献が社内で認められ、それなりに満足できる処遇を受け、いわゆる出世の確率も高かったといえます。しかし、今は違います。海外の仕事も「開拓」よりも、パイオニアの大先輩が作った既存のモデルや仕組みの踏襲と改善が中心です。さらに、今は海外駐在員の絶対数が多く、本社組織も縮小均衡傾向が強いので、帰国後の「出世感」も大先輩の時代と比べると薄くなっています。ですから、行きたくない国に敢えて赴任して高いリスクを抱えるよりは、国内で無難に過ごしている方がベターという感じ方になるのではないかと思います。
 ただ実際には、外向き志向の人材もいるわけですから、そのような人材をもっとクローズアップして、社内でも登用していく事例が増えていくことが望ましいと思います。そうでないと、外向き志向の人材は個性が強く行動力が高いので、会社を辞めるだけでなく、海外に身を移していくことになり、日本社会で内向き志向の「純度」がどんどん高まっていくことになると思います。

Q-3 グローバル人材というと、どうしても「語学」に視点が向きがちです。たしかに、語学はできるにこしたことはないのですが、小手先の対処療法では、グローバル人材の育成はできないと思っています。具体的には、どうすればいいのでしょうか?

 グローバル人材=英語ができる、というのは欧米先進諸国の経済に勢いがあった時代の発想です。今は、経済の中心が欧米先進国から新興国に大きくシフトしています。今やアジアでの日本企業の海外拠点数は欧米を大きく上回ります。もしかしたら近い将来は、グローバル人材=中国語ができる、という方程式に変わるかもしれませんね。
 世界の人とダイレクトにコミュニケーションするためには、やはり、英語や中国語などを習得した方が間違いなくよいです。海外で生活し仕事をするのであれば日常会話レベルの習得はトライする必要があると思いますし、その方が楽しいと思います。一方で、ビジネスやマネジメントでの意思疎通のためにはビジネスレベルの外国語習得が必要になります。しかし、日常会話レベル、ビジネスレベルに関わらず、日本人にとって外国語を習得することは大変なことなのです。
 言語には優先周波数があるそうで、日本語の優先周波数は英語や中国語の優先周波数と比べてその幅が狭いようです。ですから、例えば日本人が英語を初めて聞いたとき、聞きとることができない音がたくさんあるのです。その音を聞きとるためには自分の中で英語の「絶対音量」を増やすしかないのです。中国語も同じです。これは中途半端な努力では無理です。そもそも日本人は英語や中国語を習得するにあたりディスアドバンテージ(=不利)があるということです。外国語を勉強してもなかなか実践的に使えるレベルに到達することができない日本人が多い大きな原因のひとつはここにあるといえます。
 では、どうすればいいのでしょうか? 英語を習得した日本人の多くは「言語」を習得すると同時に、英語を使うひとたちの「思考と行動」も習得しているのです。「言語」レベルもさることながら実は「思考と行動」に大きな変化が生まれるのです。人によっては以前と比べて別人と思えるくらい変化する人もいます。
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