世界不況に煽られて沈鬱する国内景気。“売れない時代”に苦慮する一方で、アジア諸国の隆盛とグローバル化の流れが、避けられない変化となって日本企業を翻弄する。「変化」に対応すべくは「変化」の力。
こうした状況を打破するために、多くの企業で、「イノベーション」の必要性がにわかに叫ばれ始めた。
——しかし。イノベーションとはなにか、イノベーションを起こすにはどうしたらよいのか、その本質についての理解は乏しい。イノベーションは変革であり、変革は諸刃の剣である。使い方を誤れば、自身の首を絞める結果ともなりかねない。
そこで、日本にイノベーションの考えを持ち込んだ第一人者の米倉氏と、その弟子であり、世界各国を渡り歩いてきた清水氏に、この武器を正しく振るうための方法を聞いた。
イノベーションとは?
イノベーションとはそもそも何なのでしょう?
米倉:イノベーションって今ではさまざまな意味で使われていますけど、最初は「技術革新」と訳されたわけです。しかし、そのうちに、いやそれだけでもないなと。
プロセスのイノベーションもあるし、マーケットの発見もある。組織のイノベーションもある。さらに、ソーシャル・イノベーションといって、社会的な問題をビジネスの力を借りて解決しようというのもある。福祉などを国とか税金に頼らないでやろうという形でね。
 もうイノベーションの地平はどんどん広がってきたと思う。これはとてもいいことだと思っているのですけども、経済的な側面の大きなジャンプを推進するっていうところもやっぱり忘れてはいけないね。そのあたりは、清水君は実に強調していると思うのですが、どうですか。

清水:僕もソーシャル・イノベーションのようなものも大切だとは思います。けれど、今の日本企業を見ていると、価値作りがどうも上手くいっていないというのが問題ですね。イノベーションの定義の中では、新しい経済的な付加価値を作るという点がとても重要でしょう。これがなければ、やはりイノベーションではないですよ。例えば、日本の一人あたり労働の生産性が落ちてきている。今のところ僕たちは資本主義の中で生きているわけですから、企業のイノベーションが我々の社会を動かす原動力なわけです。そこをまずはしっかりやることが大切だと思うのです。

米倉:そうだね。経済的な側面はやはり重要だね。アメリカ型が破綻したとか、アメリカ型の資本主義は終わったって言うけど、我々の生活を面白くしているものって、Googleにせよ、Facebookにせよ、iPhoneにしろ、残念ながらみんなアメリカから生まれたものなのですよ。
そういうことをすっかり忘れて、「いやぁ、アメリカ型なんかもう終わったよ」とか、「これから日本のなんとかが」とか言っても仕方ない。イノベーションってソーシャルで社会企業家が大事だって言う前に、やっぱり経済力をきちっと作るっていうのは確かに大事だと思うね。
まあ、それでも、清水君は教条的だから、ハードな感じのイノベーション以外イノベーションじゃない、なんて言っているのだけれど、僕は、「なんでもあるか。色々あるか」って、「あれもいい、これもいい」という気もするのだけどね。


清水:たとえば東北の復興を考えてみると、復興するのにお金がかかるわけです。でも、企業が収めている税金はかなり落ちています。日本の税収がですね。そのときに、真剣に、自分たちの本業のビジネスで国に貢献するのはとても大切です。まずは本業で大きな価値を創ってもらいたい。資本主義社会の原動力は、やはり企業が創るイノベーションですから。

米倉:そうだよね。日本の大手電気産業が、少なくとも自動車産業並みの利益率を上げていれば、80年代、90年代、税収は何10兆って増えてるわけですから。今37兆円なのよね。一時ピークのときの50何兆円からすると、20兆円近くヘコんでしまって、その20兆円が、今、国の借金の1000兆円の利子に使われている。だから、そのためにまた国債を発行しなきゃいけない赤字体質になる。やっぱり企業が利益をきちっと上げれば、それは減ると。でも、もう1000兆円過去に作ってしまったので、これは税金を使えないわけです。そうなってくると、今まで税金でやっていた保育所とか介護とか福祉とか、あるいは地方自治体のいろんな作業を、なるべく税金ではなくて、ビジネスの力を使ってやるという、ソーシャル・イノベーションが必要になる。これ、両輪だね。

清水:ソーシャル・イノベーションも、しっかりビジネスとして確立しますよね。たとえば宅配便だってまさにそうだったわけですよね。今では我々の生活に不可欠なインフラになっています。

米倉:そうだね。郵便局の代わりだもんね。

清水:それまで政府がやっていたことを民間に移して、こんなに大きなビジネスになっているわけです。

米倉:この間、ローソンの新浪さんと話していたのだけど、コンビニって、もうかなり社会のインフラになってるわけだよね。(大震災の後に)東北の町が復興するのに一番大きかったのは、まずコンビニが開くこと。そうすると、やっぱりそこに生活の基盤ができあがる。コンビニが開いた瞬間にね。
 さらに、大事なのは、ローソンは非常に分権化されてるわけ。仙台に東北地区の本部がある。彼らが「これとこれとこれが必要だから、送れ」と情報を東京に即座に送るから、きめ細かなことが柔軟にできる。だけど、日本の多くの企業は、東京に集権的な体制をつくって、現地に何が必要だとか分析しようとする。でも、そんなの分かるわけないじゃない。だから復興庁なんかも仙台でも、相馬でも、そういう現地に置いて、それを中央がバックアップするっていう体制が必要だと思う。それがね、コンビニなんかはもうできているっていうのを聞いて、ああやっぱりそうかと。あれもソーシャルビジネスだと考えられるのだよね。宅急便とコンビニって、ある種日本の大発明で、アジアに今どんどん出ている。
そういうことを考えれば日本の福祉システムとか介護システムも素晴らしいのを作ったら、これはもうヨーロッパ、アジアに輸出できる。そういう構想力は大事だよね。

清水:2、3日前の新聞に、「日本の医療の技術は一番いいけど、満足度がすごく低い」なんて出ていましたけれど、こういうギャップっていうのはまさにチャンスですよね。
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