米倉:多様性に関して、一番腹が立つのは就職活動。
就職活動の時期をどうするかって話でもめている。これまでのやり方を変えるといい人材が採れなくなるからって言ってるわけですよ。
「あんたたち!」と思いますよ。
この20年間、日本のGDPは30年前に逆戻りしているのですよ。ということは、いい人材が採れてないんですよ。だからやり方を変えないといけないのだけれど、良い人材が採れていると思い込んでいるのです。イノベーションの源泉は多様性です。会社はイノベーティブな人材を求むなんて言ってるけれど、やってることは全然違うのですよ。

清水:グローバルということで言えば、日本企業の海外進出はどうですかね。

米倉:今年の一月の正月の番組で面白かったのは、インドで流行っている商品を紹介したもの。インドは、テレビ番組の中でいきなりミュージカルになったりするでしょ。そのときにボリュームが倍になるリモコンが流行ってる。テレビを見ていて、普段ぺちゃくちゃ話していて、ミュージカルになった瞬間にボタン押すとパーンと大音量になるの。面白いでしょ。これを開発したのは韓国メーカーなのです。
その理由は、サムソンのボンベイ支店長は、もう12年かな、片道切符で(インドへ)来ているのですよ。子どもはもちろん、全部現地の学校に入れる。インドの経済社会の中で一定の地位を占めているのです。日本のメーカーは、(転勤してきた人が)着いた日から帰る日のことを考えている。子どもに対しても、すごくいろいろなことに接するチャンスがあるのに、お受験がとか言って、単身赴任したりする。
これでは、本当に現地に入り込んでいって、大切なニーズやウォンツを得ることはできないですよ。

米倉:先月にサムソンの中央研究所に行ってきたのです。日本人の間では、まだまだ韓国企業の技術力を軽視している人も少なくないと思うのです。でも、これはかつてアメリカのエレクトロニクスや自動車メーカーが、日本を見て、日本企業なんて技術力はなく、安価な製品をマーケティングだけで売り込んでると言っていたのと同じですよ。
でも、サムソンの中央研究所には、4500人いて、びっくりしたのは、ロシアやチェコ、ハンガリーの人材が多く働いているのですよ。数学ができるから。日本のエレクトロニクス企業の研究所で、ロシアやチェコ、ハンガリーの優秀な人材を登用して、競争させている企業ってあるのかなって思ってしまいます。
イノベーティブな人材がほしいと言いながら、すごくドメスティックな人材の調達をしているのですよね。それから驚いたのが、サムソンは横浜に350人の研究所を持っているのです。サムソンは日本からの撤退を表明しているのにですよ。日本の市場や日本企業から学ぶことはまだまだあると考えているわけです。すごいですよ。

米倉:でも日本でもスゴイと思えるような経営者も出てきています。TSUTAYAの増田さんも、フランフランの高島さんもMBOで上場廃止ですよ。一部の、我々のサクセスストーリーだと、一部上場までいったら「すごかったね」と考えられていたわけです。だけど、彼らにしてみたら、MBOをして世界で戦おうと考えているわけです。上場をもう一回するとしたら中国か香港でやろうというわけですよ。高島さんなんて、香港に家まで移してしまったわけだから。
 本当のグローバリゼーションは、現地の人材で、現地のニーズを汲み上げて、そこで新しいビジネスを起こしていくことですよ。だから、現地で、すごく優秀な人材がいれば、もう当然東京本社の社長になるってい
うような、全く新しい世界が広がっているのですよね。



先鋭化する活動、そのモチベーションは?
米倉先生の活動が最近さらに先鋭化しているようですけれども、何がパワーの源泉なのですか?
米倉:うなぎですね(笑)。それは冗談ですが、大人気ない大人にならなきゃいけないと思っているわけですよ。皆こう大人しくなってね、「ああ、そうだよね」とかではイノベーションは生まれない。
米倉:もう一つは先鋭化してはいないのですけれど、色々やってきて、教育に結構回帰しています。高校生、大学生、社会人などやってきていて、若者たちが大切だなって思うのです。アポロ11号のプロジェクトチームの平均年齢が20代だそうなのです。ケネディの月に行くぞっていう演説を聞いた若者たちが、MITに行き、スタンフォードに行き、そしてNASAに行ったのですよ。
日本を見てみると、大人たちが、大きな夢を語る。今の高校生ぐらいが、「じゃあ、自分は理科系に行って物理を極めて、大きなエネルギーをセーブできるような技術を創り出そう!」って本気で思えるようなものですよね。例えば、低音、いや、常温核融合を完成させるぞとかね。そういう夢を持って、みんなが進むことが大切で、これを先導しないといけないって思っているのです。

清水:イノベーションという観点からは、ボトルネックってすごく大切なのですよね。ボトルネックがどこにあるのかが明示化されればされるほど、そこに資源が投入されやすくなるのです。だから今は大きなチャンスですよね。でも、今、たとえば原子力発電所は、「いや、結構安全で大丈夫ですよ」なんて言って、ボトルネックをぼやかしちゃうとほんとにヤバいすよね。

米倉:本当にそう。ぼやかして「大丈夫だよ」とか、「今のままでいけるよ」って言ったら、誰もそういうイノベーションにチャレンジしないでしょ。だから、日本が先駆けて原発なんかやめて、分散化したいい国家を作って、やっぱり日本すごいねっていうようなことになるには、こう危機感を持って先鋭化しなきゃいけないと思っているのですよね。別に先鋭化してないんだけど(笑)。


クリエイティビティとイノベーションについて
今回、清水先生の執筆、監修で『C R E A T I V I T Y &INNOVATION』という講座を開発しています。こちらはどのような内容で、また、どのような方に薦められますか?
清水:クリエイティビティは、イノベーションにとって必要条件ですよね。固定概念に縛られていては、なかなか新しいアイディアは出てこない。自分の思考をロックしているものをいかにして外すのかが大切になってきます。ただし、イノベーションは突飛なことをやれば良いっていうわけではない。きちんと経済的な価値を生まなくちゃいけないわけです。そして、イノベーションを見てみると、なんとなくパターンがあるのです。いくつか。これを理解したうえでイノベーションを起こしていこうとするのと、知らずに頑張るのとでは効率性は大きく違う。まったく型破りと無茶苦茶の差みたいなものですね。型を知って、基本を知っている方が、型破りが効果的にできるわけです。もちろん、無茶苦茶やったって当たることがあるかもしれませんが、次にもう一度当たるかどうかは運になってしまう。これでは効率性が悪いわけです。

米倉:なるほどね。大事だよね。将棋だって、やっぱり羽生さんだってすごくクリエイティブだけど、でもやっぱり過去の定石をすごく勉強してる。だからそういう点では、過去の棋譜を学んで、しかもそこにプラスでクリエイティビティをつけていく。過去の話を学んだら、歴史を学んだら、クリエイティビティって高まらないっていうのは大きな間違いで、確率を上げるっていうのはとても大切だよね。
 あと、どうしてもイノベーションにしろ、クリエイティビティにしろ、新しいものであればあるほど、既存のシステムとの間に軋轢を生むよね。これはイノベーションを考える上でとても重要になってくる。だからこれはイノベーターになる人の話しだけじゃないね。組織にイノベーションを増やしていくためには、イノベーターになろうとする人を、その軋轢からどうやって守ってやれるかは大切だよね。だからぜひそのなりたい人だけじゃなくて、イノベーター達を育てたい人、クリエイター達を育てたい人達も、どうしたら良いのかを考えてもらいたい。

清水:そうですね。このテキストは一応若い人向けなのですけど、彼らを育てる側の人にもぜひとも読んでもらいたいですね。

米倉:そうだね、それは大事だね。受け入れる土壌というか、環境を作らないと結局若い人がイノベーションへと向かえない。その点でいうと、マネージャーの人たちは、少なくとも自分が若いとき嫌だったと思うことを、もうやらないで欲しいよね。自分が嫌だったことをそのまま同じようにやっている人、経営者とかね、上司で少なくないけど、彼らにはイノベーションがどのような土壌で起きてくるのかをもう一度、考えてほしい。

清水:そうですね。それと、最近の若者たちが変わってきているという話もありますよね。批判されることも多いですが、僕は結構良いかなって思っているのです。

米倉:確かに、クラスでも、わりと勝手なこと、言いたいことを言うし、やりたいこと勝手にやっている。でも、その中でお互い尊重して知識を学び合っていくよね。今までは、日本の授業では、先生の言ったことをそのまま受け入れるという姿勢が強かったわけですが、知識を創っていくというように少しずつ変化してきているね。(了)
プロフィール
米倉誠一郎(よねくら せいいちろう)
一橋大学イノベーション研究センター長
・教授

1953年生まれ。
一橋大学社会学部、経済学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了後、ハーバード大学にて歴史学の博士号を取得。ミシガン大学グローバル・リーダーシップ・プログラム・コアファカルティーを経て、95年、一橋大学商学部産業経営研究所教授。97年より、一橋大学イノベーション研究センター教授。専門は経営史。現在、日本の省エネルギー技術の経営史およびゲーム産業の生成について、イノベーションを中心とした戦略と組織の観点から研究中。
清水 洋(しみず ひろし)
一橋大学イノベーション研究センター
・准教授

1973年生まれ。
中央大学商学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程、ノースウェスタン大学大学院歴史学研究科修士課程修了後、ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて経済史の博士号を取得。その後、アイントホーヘン工科大学(オランダ) ポストドクトラル・フェローを経て、08年一橋大学イノベーション研究センター専任講師。11年より同センター准教授。専門は経営史、経済史。現在、イノベーションと企業の競争力、産業の成長を分析中。
東京都千代田区飯田橋4-4-15 Tel:03-3263-4474  Copyright (C) 2012 IEC. All Rights Reserved.