優秀なコンサルタントの選び方
もともと独立して経営コンサルタントになるのが夢だった。自由で束縛されることもなく、しかし、クライアントには信頼されて、ゆとりを持って仕事と余暇を楽しみ、日々学習したことを仕事にも活かす。そのためには独立するしかないと思った。しかし、経営コンサルタントとしての独立は簡単なことではない。私自身、3度目の正直という感じで、2度ほど独立に失敗して、いわゆるコンサルタント会社(コンサルティング・ファームともいう)に避難して巻き返しの機会を待った。
先ず、私が最初に入社したコンサルタント会社は現在もあるが、銀行系である。今も昔も銀行の信用は絶大で、銀行が紹介してくれるなら大丈夫だろうという経営者は少なくない。しかし、経営トップが人事コンサルタントを選ぶような会社はそんな大きな規模ではない。そのため、銀行系のコンサルタント会社のクライアントはほとんどが中小企業であり、従業員数で100−400名程度が圧倒的である。内容的にも職能資格制度かそれに類するものの組み立てと落とし込みがほとんどで、専門性はそんなに高くない。しかし、クライアントの数を経験するという意味では勉強になる。
私の場合、3年間で20社程度の人事制度設計を担当し、貴重な経験を積んだが、その後の独立は1年半が限度だった。決め技がなく、サービス可能な領域もあまりに狭かった。コンサルタントとして当時の仕事をリピートする専門性すらなかった私はまだ若いこともあり、すぐに転職を考えた。
その後、大手の研修会社に職を得た。トヨタなど超大手企業のクライアントがたくさんあり、専門性も高かった。私はそこで、アセスメントの考え方や技法を深く学ぶ機会を得た。しかし、同じノウハウだけでぬるま湯になっていることもあり、力のある講師/コンサルタントは数人で独立したり、転職していった。その会社の場合、トップだった人が個人コンサルタントになってしまうという有様だった。しかし、営業担当が仕事を取ってきて、講師にやってもらうという形式なので、独立後はその取り分で揉めたり、ケンカになって決裂したケースも少なくない。元の研修会社で売れっ子講師として幅を利かせていた人も、独立して数年経過すると、下っ端講師(平のアセッサー)をやるということもあったようだ。私の場合も、自分一人でコース運営できるほど実力はなかったし、研修では講師の年齢も気にする。私は当時、30歳代前半で、講師としては若すぎるという状況があった。
その後、監査法人系(外資系でもある)のコンサルタント会社に移った。昔の同僚に誘われたのだが、その受託額が莫大なので、驚いた。我々は監査法人系のコンサルタント会社における人事コンサルティング部門の立ち上げに適任ということで、召集された。報酬もそれなりによかった。しかし、監査法人の寝技で莫大な顧問料をふんだくってくるという感じで、リピートも少ないし、顧客の組織を改善するという発想もほとんどない。すぐに違和感を覚えて私は退職したのだが、残りの同僚も入社半年で解任された。人間性の問題ではなく、銀行系育ちゆえにノウハウがないのである。また大手企業を相手にコンサルティングをするという度胸もなかった。
それから私は独立したが、アセスメントのノウハウはあったものの、自分でコース運営する技量もなく、人事コンサルタントとしては二流のスキルと知識しかなかった。結局、1年もしないうちに、体調を壊したりして、暗礁に乗り上げてしまった。そこで、知り合ったのは積極路線の人で、人事情報システムをコアビジネスで考えているという会社だった。そこで1年間、私は関西を中心に事業拡大を図った。しかし、なかなか信用力がなくて受注はできなかった。しかししだいにアセスメントの仕事を思い切ってくれるというクライアントが見つかり、当時知り合った仲間をサブ講師にして、精力的にアセスメント研修を行なった。こうして私の独立の基盤ができ、晴れて独立することになった。
人事コンサルタントの選び方だが、それは私自身の事業戦略でもある。選ばれるコンサルタントにどうなるか、常に意識し、努力している。以前にも書いたが、@英語による情報力、Aコンサルタントとして今後もやれるかの将来性を再度指摘したい。@は人事コンサルタントにとって極めて重要である。私自身、コンサルティングの情報やノウハウはほとんど英書や英文サイトから情報収集している。日本語で読める情報は限られているし、実務的に役立つものはほとんどない。またクライアントも読んでおり、そこにお金を払う動機は生まれにくい。それと、Aだが、今後コンサルタントを店じまいするなら、いくらでもあくどく商売することができる。しかし、長く続けようとする人は信用を大事にするし、評判を気にする。きちんとした成果物がない、誠意ある対応をしてくれない、最初の契約時の話と違っていることが多いなどそんなコンサルタントはザラにいるし、むしろそんな人のほうが多い。
流通系のコンサルティングで有名な会社がある。ここの内情も深く知る機会があり、その話によると、数人の問題コンサルタントがいるそうである。毎月のようにクライアントから苦情が出てきたり、内容証明が届くそうである。要するに、受託する時だけ調子がよくてそれに見合うサービスを一切せず、顧客が騒ぎ出すと、A4で1枚だけのレポートを出しておしまいというのである。そういう人は銀行系ではいなかったのだが、こんなコンサルタントを抱えている独立系ファームも少なくないようだ。この会社の場合、コンサルタントの業績評価はほとんどが受注であり、プロジェクト消化ではないそうだ。
コンピテンシー・ブームが去った頃、私へのコンピテンシーに関する依頼案件も減った。私自身もある程度、コンピテンシーで稼がせてもらった。一方、コンピテンシーだけで人事コンサルタントを自称していた人は、外資系での職を失い、HPを開いてもいなくなってしまった。中には一旦、一般企業に移り、1年ほどして日系のコンサルタント会社に復活した人もいる。このようにコンサルタントは潰しが利かずに一般企業で勤まりにくい。私も収入が減ったが、時間ができたので、タイに旅行した。ついでに、外資系人事コンサルタント会社のセミナーを受講することにした。
バンコクの一流ホテルが会場で、早目に着くと、コーヒーとビスケットなどが置かれていた。それをつまみながら、コーヒーを飲んでいると、総勢50名以上の日系企業が参加してきた。公演が始まると、驚くような話が紹介された。以下は、講演の骨子である。
−日本企業にもようやく世界標準を認識して頂く時代が来ました。日本の人事部は古すぎます。日本の人事管理は海外では全く通用しません。そのことを我々は強調してきましたが、全くと言っていいほど受け入れられませんでした。皆さんは経理・財務関係者の方が多いようですが、それはいいことです。下手に日本で人事を知っていると、海外では通用しません。海外にきたら海外の論理に合わせて下さい。・・・・
そして彼らが世界標準として紹介したのが、MBOによる業績評価とコンピテンシーだった。そしてその面々はかつてコンピテンシー・プロジェクトで暗躍していたメンバーだった。彼らのうち、英語の多少できる連中が上海に事務所を移して活動しているということだった。
また彼らの言う世界標準なるものが胡散臭い。またコンピテンシーを出してくるところはさらにひどい。ちなみに、その外資系コンサルタント会社は英書ではコンピテンシーに関して一冊の著書もなく、自社版のノウハウがなく、日本では使いまわしの納品物で対応していたところである。私は今でもその会社のメルマガを購読して商圏情報を得ている。

私の個人HPは7年ほど実在し、毎日数百人のアクセスがあった。英文情報も結構あったので、韓国や台湾などの企業もよくアクセスしていた。私はそのサイトにコンサルティングの成果物も結構公開していたが、それが自分の収益になることはなく、社会保険労務士などのコンサルティングのノウハウになっていたり、それを無断借用するという実情があり、1年半ほど前に一気にクローズした。私への問い合わせなどは減ったが、仕方がない。今後はいろいろなところに投稿して情報発信していこうと思っているが、そんなところにIECさんからも連載のお話も頂いた。
なお、私が優秀なコンサルタントだなどと言うのではない。コンサルタントに関する誤解を解いてから選んだほうがよいというだけである。その参考になればと思い、あえて業界の実情を披露したのである。


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