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とばない飛行機、とんだ空港(ラオス)

東南アジアのなかで、最も情報が少ない「神秘の国」を挙げるならラオスでしょう。少し前まではミャンマーもかなりの秘境イメージがあったのですが、民政移管後はめざましい成長ぶりが注目されており、知名度でラオスに大きく差をつけた印象があります。ラオスの見どころといえば、世界遺産のルアン・パパーンを抜きには語れません。というか、それ以外に語れるような名所がないのも事実なのですが、今回はそのルアン・パパーンを17年前に訪れたときの話。いかにもラオスらしい、なんとものんびりしたエピソードですが、さすがに今のラオスは、こんな状況にはならないと思うのですが――。

首都ビエンチャンへは、タイ側の国境ノンカーイから陸路で入国しました。国境の道は「友好橋」と呼ばれています。「友好橋」の名のとおり、あらゆる面でラオスはタイの影響を色濃く受けており、なかでもタイ語とラオス語は同一言語と勘違いされるほど似通っているのだとか。そうした強みを生かし、ラオスは人件費が高騰し続けるタイの受け皿的な役割も担っています。
ラオスは東南アジアで唯一の「内陸国」。2009年春までは唯一の「鉄道がない国」でもありました。現在はノンカーイータナレーン間に「国際列車」が運転されていますが、その距離はわずか6キロ余りで、本数も2往復のみ。「6キロしかないのに、遅延が当たり前のアテにならない国際列車」と、評判はよくないようです。しかし、これはラオスだけに非があるのではなく、接続するタイ側の列車の遅れが慢性化しているため。今冬、乗車する計画を立てているので、その体験記は改めて紹介したいと思います。
ビエンチャンからルアン・パパーンへは、値段が高いラオス航空の国内線を利用しました。当時はまだ道路事情が非常に悪く、地元の人に「バスだと何時間かかるか分からないよ」と言われたからです。ラオス航空のオフィスは、首都に構えるオフィスとは思えないユルさで、女性スタッフの昼食が終わるまで、発券作業は始まりませんでした。もちろん、「少々お待ちください」という言葉も、食事を急ぐ素振りもありません。ただ、ラオス人の名誉のために補足しておくと、この女性が怠け者というわけではなく、これがラオスの流儀なのです。「郷に入れば郷に従え」の精神なくして、ラオスでは何事も進みません。ラオスでの滞在中、そのことをイヤというほど痛感させられました。

やっとの思いで入手したチケットを握りしめ、空港に到着すると、そこでまた脱力したくなるような事態が。離陸直前まで自分の座席が分からずヤキモキしていると、航空会社のスタッフは「好きな席に座れ」と言うではありませんか。飛行機にも「自由席」が存在することを、このとき初めて知ったのでした。
オンボロのプロペラ機はなかなか動き出す気配がなく、何らアナウンスもないまま1時間半ほど待たされましたが、離陸してしまえば順調なフライトで、ほぼ所要時間通りにルアン・パパーン空港に着陸しました。同乗の欧米人バックパッカーは「やれやれ」という表情を浮かべていましたが、1時間半など遅れの範疇に入らないことを、復路のフライトで思い知らされることになるのです。
  観光客ズレしていない古都ルアン・パパーンの3日間は楽しく、「ラオスはいい国だな」と満ち足りた気持ちで過ごしました。そしてビエンチャンに戻る日の朝――9時発のフライトだったので、余裕をもって7時には空港で待機していました。空港とはいっても、バンコクのバスターミナルのほうがよほど立派というくらいの粗末な建物です。案の定、9時を過ぎても飛行機は現れず、何の説明もありません。それから3時間――ラオス人は日常茶飯事と悟りきっているのか、悠然と時間をやり過ごしています。「フライトキャンセルではないのか」と質問しても、空港職員は「分からない」と繰り返すばかり。そうこうしているうち、さらに3時間が経過し、「もう飛んでも飛ばなくてもどうでもいい」と観念すると、ようやくビエンチャン発のオンボロ機の姿が視界に入りました。とはいえ、到着機がすぐに折り返すはずもなく、そこからまた2時間近くも待つことに。いったいどんなトラブルがあったのか分からないままでしたが、とりあえずビエンチャンに帰れるだけでラッキー。「自由席」に乗り込み、頼りないプロペラ機が動き始めたときには、さすがのラオス人もニヤッと嬉しそうな笑顔をみせていました。

あれからラオスを訪れる機会がなく今日に至っているのですが、なぜか思い出すのは、美しいルアン・パパーンの景色よりも、ひたすら待ち続けた空港での無為な一日なのです。それはラオスの人たちと一緒に、ラオスらしい時間の流れを体験できたからかも知れません。次に訪れたときは、あんなに待たされるのは御免ですが…。
 
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