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日本人は
時間を大切にしている?
日本の社会では、「時間を守らない人は信用が低い」という固定観念があります。そのため、日本人の間ではプライベートでも仕事でも、他人と約束した「時間(=物事を開始する時間)を守る」行動習慣が定着しています。約束に遅れそうになると、信用を失いたくない意識が働き、必ず相手に連絡を入れてお詫びをします。このように約束した「始まりの」時間を守ることは、自分の信用に関わることもでもあり、日本人同士では大変大切なことです。
海外ではどうでしょうか? そもそも、日本と同じような時間に関わる社会的な固定観念はないといっても過言ではありません。日本と比べて交通機関が時間に正確でないことはもとより、家庭でも親が子供に対して「始まりの」時間を守ることの大切さを優先して教育しているわけでもありません。そのため、外国人は「始まりの」時間に遅れても、自分の信用を失うリスク意識が低いだけでなく、相手の時間をムダにしてしまう罪悪感すら薄いのが実情です。

日本企業の海外拠点で、日本人駐在員が主催する会議の開始時間になっても出席予定の現地社員がその場にいないと、まず、日本人は本能的に「けしからん!」と感じます。そう感じる具体的な理由は、「この人はルーズだ」「この人は自分勝手だ」「この人は信用に欠ける」ということになります。次に、開始時間を過ぎると日本人の表情が徐々に強張り、眉間にしわが寄り始め、イライラが始まります。その理由は、自分たちにとって当たり前でないことが目の前で起きつつあるからです。そして、ほとんどの場合、遅れてきた現地社員を強面で睨み、きつい言葉で叱り、他の参加者の時間をムダにしたことについての謝罪を要求します。その結果、その場の雰囲気はものすごく凍りついてしまいます。さらに、遅れた人に「なぜ遅れたのか?」と遅れた理由を質問します。「前の打ち合わせが延びたからです」「急ぎで対処しなければいけないことがあったからです」「渋滞につかまってしまったからです」などの答えが帰ってくると、「それはいいわけだ!いいわけはいらない!謝ればいい!」という具合にイライラは絶頂に達してしまいます。遅れた側は「聞かれたからきちんと答えただけなのに…」と複雑な気持ちになります。このような「空気」になると、その後しばらくは、会議室に集まっている全員の脳の働きが停止してしまうことになり、会議の「質」に影響が出てしまいます。

多くの外国人は、日本人は「形」にこだわり過ぎて「内容」を軽視する傾向があると感じています。「会議の始まりの時間には厳しいけど、なぜ会議の内容にはこだわらないのだろう?」という疑問があるのです。日本人は「始まりの時間を守る」ことに厳しいが「時間を大切にする」という感覚が薄いと受け止められているのです。

日本人にとって「時間を大切にする」ためには「時間を守る」ことが優先されます。しかし、外国人にとって「時間を大切にする」ためには「共有するお互いの時間を有意義なものにする」ことが優先されるのです。「時間を大切にする」ということは、一緒に過ごした時間の中で「理解し合えてよかった」「次にやるべきことがはっきりしてよかった」とお互いに感じることができることを意味しているのです。
会議の中で対等な議論ができないのであれば、外国人にとって参加する意味は薄れます。最初から日本人駐在員の間で結論が決まっていて、形式的に賛同意見を求められるのもあまり心地よいものではありません。また、何が決まったのかが不明なまま会議を終えてしまうと、それこそ消化不良となり有意義な時間にはなりません。さらに、会議では何も決まっていないのに、その後、気がつくと、日本人駐在員の間だけで結論が出されていたことになれば最悪です。実際のところ、案外このようなことは海外拠点だけでなく、本社を中心としたクロスカントリーの電話会議、テレビ会議でも起きているのが現実なのです。


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