各界の一言居士のみなさんに、日本を、企業を、そして我々ビジネスマンを“よく”するために、
“最近アタマにきていること”を、リレーで綴っていただくコーナーです。
◇第9回のゲストは松井証券代表取締役社長 松井道夫氏

1953年長野県生まれ東京育ち。一橋大学経済学部卒業後、日本郵船に11年間勤務。その後義父の経営する松井証券に入社。95年より代表取締役社長。
バブル崩壊後、外交営業廃止などいち早くリストラクチャリングに取り組むと同時に、横並びだった各種手数料を引下げるなど、業界の慣習や旧来の常識に囚われないビジネスモデルを構築した。98年インターネット取引を開始。99年の手数料自由化を機に飛躍的に業績を伸ばし、現在個人の株売買金額では野村ほか大手3社を凌駕するまでに至っている。01年に東証1部に上場。
【著書】 「おやんなさいよ でも つまんないよ」(ラジオたんぱ/2001年刊)「かね よりも だ」(KKベストセラーズ/2002年刊) <一橋大学イノベーション研究センター米倉誠一郎教授 との共著>
最近米国で、配当二重課税の廃止論が高まってきている。日本でも個人の配当課税軽減議案が先の国会で通った。ただ、彼我の議論には根本の哲学に大きな差異がある。米国での議論はそもそも論からスタートしている。即ち個人税制と法人税制の統合による二重課税の廃止である。

法人が利益を出すとその所得に対して法人税が課税される。そして税引き後の利益から配当が支払われる。この配当所得に個人所得税を課せば、同一所得からダブルで課税されることになる。

そこで米国では個人配当課税を廃止しようとしている。話はここで収まらないのがさすが米国。税引き後利益のうち内部留保に向けた部分についても問題にしているのである。内部留保は課税されないのだから、それで何が問題になるの?とは彼らは考えない。個人投資家が将来この株を売った時のことを考える。内部留保の分は株価に反映されるのであるからキャピタル・ゲイン税として配当と同様ダブル課税になると考えるのである。その解決策として、一株当たり課税所得(EDA)のうち配当されなかった部分は、売却時の譲渡益計算の際に、取得原価に上乗せさせる(減税)ことまで踏み込んでいる。減税の規模があまりに大き過ぎるので、さすがにこれがその侭議会を通るかどうかは微妙であるが、米国資本主義の本質を観る想いだ。

一方の日本は法人擬人説とかに依拠する学者達による神学論争の域をいつまで経っても脱していない。論理は横に置いて、結局本音は取れるところから取るという官僚特有の狭量政策を政治が打破できず、足して二で割ったような中途半端な対応に終始している。しかも配当減税の対象から株保有比率5%以上の個人は除外するなど、会社を所有するのは会社という日本特有の会社社会主義を前提にしている。今、急速に持ち合い解消が進んでいるにも係わらずである。これから日本の将来を担う新規上場企業の中で、上場時既に株主分散がされている企業を探す方が難しいと思うのだが。四半期毎に出されている会社四季報などを見ても分かるというものだ。

国家統制社会主義で戦後大成功した日本が普通の資本主義・市場経済に移行するのは長い道程になるのかもしれない。トンネルに入らなければ出口は見えない。トンネルに入るのを躊躇しているうち全員凍死するのを今危惧している。


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