各界の一言居士のみなさんに、日本を、企業を、そして我々ビジネスマンを“よく”するために、
“最近アタマにきていること”を、リレーで綴っていただくコーナーです。
◇第20回のゲストは、タリーズコーヒージャパン株式会社http://www.tullys.co.jp
代表取締役社長 松田公太 (まつだ こうた)氏です。

(略歴)
1968年宮城県生まれ、東京で育つ。
父の転勤で1973年アフリカセネガル国へ。更に78年米国マサチューセッツ州レキシントンへ、86年帰国し筑波大学国際関係学類に入学、90年三和銀行入行、96年退行。
97年タリーズコーヒー1号店銀座店オープン。
98年タリーズコーヒージャパン鰍設立し社長に就任。
2001年(当時)飲食業界最速で株式を上場。
2002年8月持株会社体制へ移行。
フードエックス・グローブ株式会社に商号変更。著書:「すべては一杯のコーヒーから」(新潮社)
日本人が政治に興味を持てない一つの理由として、「税金」や「年金」について深く考えていない(理解していない?)からだと常日頃思っている。しかし、それは決して不勉強な国民だけの責任とは言えない。そのような状況(システム)を意図的に作っている政府に問題があると感じ、憤りを覚えてしまう。

例えば源泉徴収のシステム。昭和15年の導入以降、国民の大半を占めるサラリーマン達をゆでガエルにすることに成功した。毎月自動的に給与から天引きされる税金。ほとんどのサラリーマンは痛みを感じず、この状態を許している。もし、これが毎年自分達で申告し収めるようなシステムであったらどうだろう。年収500万円であれば、毎年3月15日には約22万円と、まとまったお金を払わなくてはいけなくなる。勿論払えないと困るので、賢明な日本人であれば、毎月自分達でその税金見込み分をプールしているだろうが、一発でその金額を払うとなると「痛み」を感じるようになるはずである。そして痛みを感じれば「自分が一生懸命働いて稼いだお金を一体何に使っているのだろうか・・・。もっと明確にしてもらいたいし、正しく使ってもらいたい」と考え始めるようになるはずである。そうなると、最終的には政治に興味を持ち始め、国民が参加する政治が実現するだろう。

最近導入された総額表示のシステムなどは、源泉徴収と同じカラクリである。今までは商品を購入する度に消費税分を上乗せして払うコンシューマーは、「消費税を何に使っているのだろう?安易に上げられたら困る」と思っていたはずである。ところが、総額表示になってしまうと、それを感じなくなってしまう。税金が同時に取られているのを忘れてしまうからである。近い将来消費税が7%に引き上げられたとしても、それすら感じることはなくなってしまうだろう。また、弊社のように単価の低い事業を営んでいる小売業やサービス業などはその2%を安易に価格に上乗せできない事もあり、結局は企業努力や利益を減らして吸収するしかない(既に民間企業は政府や官の何倍もの努力をしていると思うのだが・・・)。よって、政府は風当たりも感じずに、税収を増やす事が出来るのである。

年金も自動的に給与から天引きされることによって、今まで関心の度合いを低めることに成功してきた。直近で年金制度関連法案が成立したが、毎月給与から天引きされる年金保険料の金額を答えられ、そしてまた自分が将来もらえる年金額を知っている日本人はいったい何人いるであろう。また、保険料率が引き上げられ、2017年には18.3%(うち個人負担分は9.15%)という年金負担を強いられることに疑問を感じる人はいったい何人いるだろう。年金制度を複雑にして、国民に知ろうとする気持ちさえ持たせないのも一つのゆでガエル戦法であろうか。
このように、一時期は問題視され、マスコミにも取り上げられたりするが、熱しやすく冷めやすい日本国民の性格を逆手に取って、なし崩し的に導入/改定されてしまう事が非常に多いのである。

そのような傾向は勿論経済や税制だけではなく、国際政治的にも利用されている。
先日G8で小泉首相が国民への説明はおろか、国会内での審議さえ行わず先走って多国籍軍への参加を表明したのも、「どうせ言ったもの勝ち。国民はすぐ忘れてくれるだろう」と考えている現われではなかろうか。このまま、現政権の暴走を許すと、気が付いたら日本はとても住めるような国ではなくなってしまう。海外へ逃がれる事ができるごく一部の富裕層は良いかもしれないが、どこにも行く事が出来ないほとんどの国民は気が付いたら熱湯の中に身をおいている状況になってしまう。今の年老いた政治家達はあと生きても20年やそこらなので気にはならないかもしれないが、若い世代や生まれてくる子供達は生まれた瞬間から「ゆでがえる」になってしまうのである。

そうならない為にも数の論理でしか物事を考えない現政権の存続を早急に食い止めると同時に、現在の多党型の政治を見直し、一党首と一与党の暴走を食い止める事が出来る政治システムにしないと手遅れになってしまう。昨今、民間企業においては「コーポレート・ガバナンス」という言葉が定着し、組織・共同体としてあるべき姿が様々な場面において議論されるようになったが、本来の「governance」を行うべきである政府のあり方についてももっと議論されて然るべきである。

※「ゆでガエル」現象
突然熱湯の中にカエルを入れると、熱さにびっくりして飛び出してしまう。しかし、水の中にカエルを入れ、徐々にその水を沸騰させると、カエルは気付かずにゆであがって死んでしまうこと。


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