各界の一言居士のみなさんに、日本を、企業を、そして我々ビジネスマンを“よく”するために、
“最近アタマにきていること”を、リレーで綴っていただくコーナーです。
◇第22回のゲストは
東京都参与(文化担当)、トーキョーワンダーサイト館長
今村有策 (いまむら ゆうさく)氏です。

(略歴)
1959年 福岡県生まれ。1983年 日本大学大学院理工学研究所建築学専攻卒業。工学修士。1985年(株)磯崎新アトリエ入社。1991−3年 文化庁在外研究員としてコロンビア大学(ニューヨーク)客員研究員。帰国後、復職、その後、独立。ライフスケープ研究所設立。建築を「場(サイト)が生まれる」という観点から、新都市構想や行政の委員から子どもの教育ワークショップまで様々なプロジェクトを手がける。
2001年 東京都参与(文化担当)、トーキョーワンダーサイト館長に就任。
ニューヨークに暮らしていたときの楽しみは、ごくごく当たり前の生活をすることだった。地下鉄に乗ったり、食事をしたり、公園で散歩したり、カフェでのんびりしたり。大好きなイタリアに出かけてみると、夕食が終わる時間になると、たくさんのひとが街をそぞろ歩きをはじめる。店はとっくに閉まっているけれど、ショーウインドウを見て、あれこれ言っている。もちろん子供連れも多くて、われわれの子供も突然、見知らぬ子供たちの仲間に入って、そぞろ歩きを楽しんでいる。
しかし、東京でついぞ、こんなことを楽しんだ記憶がない。多分、東京という街が大きすぎるのからに違いない。世界の大都市は案外小さい。だからNYやローマは、街の雰囲気が凝縮して、あるまとまりとしてこちらに雰囲気を伝えてくるのだろう。

芸術文化もしかり。東京には質量ともに、ものすごい芸術文化のイベントがある。個々のプログラムは、もちろん充実しているのだけれど、似たようなイベントが、いろいろなところで行われていて、どうも、街の総体としての芸術文化の雰囲気が見えてこない。街のにおいが希薄なのだ。

きっと問題は街の大きさだけではないだろう。イタリアの人たちは何百年も同じように、ああやってそぞろ歩きをしているに違いない。きっとそうしなくてはならないのだろうし、それができなきゃ生活なんかじゃないのだろう。私は、人が「こうしなくてはならなかった、こうしかできなかった」生き方やそこから生まれてくるものが大好きだ。

アートは、そういうものだ。ひとぞれぞれ、そのひとなりの考え方、やり方を突き詰めていくこと。たった一人の個人が、つきつめて、つらぬいて、それを何かで表現する。そのたった一人の戦いの強度こそが作品の強度だ。だから今日のような強烈な個性の少ない日本には、僕の言うアーティストのような人間が一番大切なひとではないだろうか。そんな生き方にチャレンジすることを、みんなで「やってみろよ。おれもやるから」といきたい。街が生き生きしてくるのは、まずそういう個人がどんどん出てくることからだ。そしてそういうチャレンジを支援する仕組みも必要だ。

東京の文化担当の参与として、トーキョーワンダーサイトという若手の芸術家の応援そして芸術家たちの交流の施設を運営しながら、東京都の文化政策に携わっている。これまでの東京都の文化政策は入場券を安くすることなど観客の鑑賞を補助することに主眼を置かれてきていた。

しかし、現在、東京都は東京発で芸術文化を創造し、発信するプロジェクトを積極的に支援しようという方向に舵を切った。私たちは「アートは新しい東京をつくれるか」を旗印に、創造的個性が生かされ、発揮されることによって、ついにはより生き生きとした街、東京となること目指している。

しかし、そうはいっても、ひとをわくわくさせる若手の作家が少ないし、相変わらず東京をそぞろ歩きする気にはなれないし、周りの面白いやつらは、みんな外国を活動の拠点としてしまった。俺も出て行くぞ!と怒りを胸に、明日の東京を夢見ている。


back next
東京都千代田区飯田橋4-4-15 Tel:03-3263-4474  Copyright (C) 2012 IEC. All Rights Reserved