各界の一言居士のみなさんに、日本を、企業を、そして我々ビジネスマンを“よく”するために、
“最近アタマにきていること”を、リレーで綴っていただくコーナーです。
第36回のゲストは
米倉誠一郎(よねくらせいいちろう)さん
イノベーションと云えばこの人。第1回目のゲストが再登場です!

1953年東京生まれ。一橋大学社会学部および経済学部卒。同大学院社会学研究科修士。現在、一橋大学イノベーション研究センター長。
 昔から旅には出てきた方だが、最近はもっともっと旅に出ようと思う。外の世界と関わっていないと、自分がどんどん楽をするからだ。今年もバングラデシュに始まり、済洲島、フランス、ソウル、南ア、シンガポール、インドとなるべく外に出ようとした。

 そして、先週末やっと気仙沼にいった。震災後気にはなりながらも10月末まで予定が組めず、ずっと訪ねることの出来なかった東北の被災地を自分の眼で見るためだ。気仙沼には応援しているNPOネットワークオレンジがあるので、彼らと共に気仙沼、陸前高田、南三陸を見て回った。ネットワークオレンジとは「障害のある人と障害のない人がともに町づくりをする」という理念の下で、障害児童のデイケア・サービスや就業支援を進める福祉NPOである。代表を勤める小野寺美厚(おのでら・みこ)さんは自らが障害をもつ双子の母親だが、何の支援もない中たった一人でこの団体を立ち上げ、次々と実績をあげてきた。そして、2010年には東北ソーシャル・アントレプレナー大賞、社会イノベーター公志園全国大会ファイナリスト8の一人に輝いた行動する女性である。しかも、嬉しいことに彼女は日本フィランソロピー協会とアメリカンエクスプレス社が共催し、僕が校長を務めるNPOリーダー育成プログラムの第1期生でもある。そのネットワークオレンジは震災後わずか12日で活動を再開し、その苦しい中で5人もの新たな職員を雇用し、自らの事業ばかりでなく気仙沼さらには東北復興まで視野に入れて活動しているのである。驚くべき強靱性である。中央政府を見ていると絶望的になるが、彼らを見ていると東北復興は大丈夫かもしれないと思う。しかも、代表以下みんなが底抜けに明るい。笑顔が絶えない。

 しかし、今回の震災が人々の心に与えた傷の深さを知ったのは、その明るい彼らの多くが、すぐ近所である気仙沼の被災地や隣町に足を運んでいないことだった。とても行く気にはなれないのだという。さらに、ワンボックスカーが被災地を進むに従って、それまで明るかった二人の青年がどんどん黙り込んでいった。後で聞けば、一人は父親と兄を、一人は祖母と父親を亡くしていた。あんなに明るい二人の影にはそんな悲劇が横たわっていたのだ。合掌。

 翌日、日本元気塾の有志と合流するために盛岡に出た。盛岡出身の塾生が東北支援ツアーを企画したからである。バスを借り切り盛岡から宮古に行き、中尊寺を経由するツアーだ。内陸にある秋の盛岡は美しかったが、宮古には津波の大きな傷跡が残っていた。塾生の多くは既にボランティアに入っており、今回の物見遊山風ツアーには懐疑的だったものもいた。しかし、「まずは見に行くこと」そして「東北で消費すること」ということで企画は実現した。行ってみて良かったのは、浄土が浜パークホテルの支配人の、
「みなさんのツアーのおかげで再開の日程が立った」
という一言だった。そうか、16人程度でも観光客がバスで来るという情報が彼らの未来を左右するんだ。何も無くなった被災地を見ると自分の無力感に襲われる。しかし、その自分ができることの一歩はまずそこへ足を運ぶことだった。


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