各界の一言居士のみなさんに、日本を、企業を、そして我々ビジネスマンを“よく”するために、
“最近アタマにきていること”を、リレーで綴っていただくコーナーです。
第37回のゲストは、奥山清行(Ken Okuyama)さん
「イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインした男」として有名な、日本を代表する工業デザイナーの登場です!
工業デザイナー / KEN OKUYAMA DESIGN 代表

1959年山形県生まれ。ゼネラルモーターズ社チーフデザイナー、ポルシェ社シニアデザイナー、ピニンファリーナ社デザインディレクターを歴任。エンツォ・フェラーリ、マセラティ・クアトロポルテなどの自動車やオートバイ、電車、航空機、船舶、家具、ロボット、テーマパーク等 数多くの工業デザインを手がける。
2007年に株式会社KEN OKUYAMA DESIGNを設立、代表を務める。
アートセンターカレッジオブデザイン工業デザイン学部客員教授(米)、多摩美術大学客員教授、金沢美術工芸大学客員教授、山形大学工学部客員教授。
著書に『フェラーリと鉄瓶』PHP出版社、『伝統の逆襲』祥伝社、『人生を決めた15分 創造の1/10000』武田ランダムハウスジャパン、他多数。各地で講演も行う。
 ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、最近ものづくりの繋がりから、色んなところで街づくりのお手伝いをしている。

 皆さんは、街づくりをする上で一番の厄介者は誰だと思うだろう。

 住民?いや、住んでいる人にとっては死活問題だから、地元の利益になることを一生懸命考えて、きちんと説明すれば必ず理解してくれる。行政?いや、田舎の公務員達は地方で一番優秀だし真面目だ。政治家?まあ、これでもかと言う位ろくでもない人間ばかり居るけれど、大した力は持っていない。
 一番の邪魔者は、地元の商店街や土地を持っている「有力者」達だ。街づくりなどよりも、一円でも多い自分の利益を優先する。自分は郊外に居を構え、街中の店舗やビルは人に任せている。このご時世空室ばかりのくせに家賃を下げる気など全くない。金銭に困らないオーナー達が軒を揃えている厚い面の皮が、あのシャッター商店街の正体だ。有利子負債があったなら、更地になるか金融機関が持っていく。
 地元の復興を考えるなら、ベンチャーを起こした地元の若者に安く貸したり、経費が出る程度の店舗でも自ら開くだろう。

 そして本当に困っているのは、年老いて中心部に越してきて自動車免許も無いおじいちゃんや、商売を興そうにも店舗も借りる開業資金も無いお父さん、郊外の大型店以外繁華街を持たないお母さんたちだ。
 地元商店街が復興した街とそうでない街の違いは、復興を真剣に考えているかどうかだと思っている。真剣に考えれば、街が一つにまとまることが復興するために大前提であることは、誰にでもわかる。実現していない街は、何のことは無い、自分たちの利益しか考えていないからまとめる気がないのだ。

 僕の限られた経験から言えば、ものづくり産業中心の街はまとまりが良い。昔から原材料の仕入れや小売商社とのつながりで、協力しないと仕事にならなかったから、街づくりにも同じ傾向がある。
 一方で、商業中心の街はまとまりが悪い。お互いに脚の引っ張り合いばかりして、自分の家や法人の利益しか考えない。僕の身近な例で言えば天童市が前者で、私の故郷である山形市は残念ながら後者だ。

 その山形市の中心街に、よせば良いのに昨年Ken Okuyama Casaというデザイナーズショプをつくった。
 山形には東北有数の蔵が点在し、北前船交易で都から直接伝わったその建築様式はとても美しい。東から西の水田へ水を流すために街中の至る所には堰(せき)と呼ばれる用水路が流れる。僕の幼少の頃には美しい街だった。地元の有志が蔵を中心に木造商業施設を作るというので、マスタープランづくりを手伝い、責任上僕もお店を開いた。以来お陰さまでなんとか黒字を維持している。

 しかし、街の美しさを守りながらの街づくりには問題が山積みで、そのなかでも最も頭を悩ませるのが、冒頭で述べた地元の有力者たちだ。
 たとえば、借景にしていた隣の蔵がいきなり取り壊されたりする。土地のオーナーの意図であるようなのだが、なんでも、昔のものを残す街づくりは、ビジネスには邪魔になると思っているらしく、建物を残す運動とか署名活動とか起こる前に壊してしまえ、というのだ。他にも至る所で美しい蔵たちは潰されていっている。

 たしかにその地元の有力者たちのビジネスの発展によって、住民もいままでさまざまな利便性を享受してきてはいた。しかし、皆がまとまって街を復興することが急務な今になっても自分たちの利益しか考えないのは、いかがなものなのかと思うのである。

 山形の若者は、毎週土曜にはいまでも太平洋側の被災地に出掛けボランティアをしているというのに、その親は何たるザマだ。僕はあの世代にはもう期待しない。シャッター商店街はその不様な様子を晒し続けるが良い。僕らは僕らで新しい街づくりを続ける。


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