各界の一言居士のみなさんに、日本を、企業を、そして我々ビジネスマンを“よく”するために、
“最近アタマにきていること”を、リレーで綴っていただくコーナーです。
第43回のゲストは、村口和孝(むらぐちかずたか)さん

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ
投資事業組合
ゼネラルパートナー

1958年、徳島県生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、株式会社ジャフコに入社。1998年、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合を設立。日本のVCプロパー第一世代で長い経験を持ち(23年)、通算成績はキャピタルゲイン350憶円以上。アインファーマシーズ(売上5億円で投資)、ジャパンケアあーびす(実質売上2500万円、経常赤字で1億円投資、5年努力後公開回収成功)など、日本では初期段階投資の成功を複数実績持つ数少ない実務者。「社会にベンチャーが生まれ活性化するにはスピンアウト支援可能な、独立的資本環境が不可欠」と説き、ハイテク関連投資、大企業スピンアウト型投資の組み立てに注力中。
日本人「組織人病価値分裂症」 全体最適へ、価値観再統合が必要


20世紀後半の日本人は、第二次世界大戦に敗北し、敗戦国からの復活を期して、ことさら平和な組織に日本人すべてが帰属しているかのような、組織人のふりをすることで国際社会への復帰を目指してきた。
農地解放された農村は組織化され農協になったし、GHQによって財閥解体された大企業は業界団体を形成し、官僚と大銀行が組織を牛耳った。
たまたま、円安によって高度成長した日本経済の中で大企業に勤める労働者サラリーマンは、終身雇用と労働基準法に守られ、官僚か大企業に勤めれば、一生安泰という時代が、組織人必勝神話の輪をかけた。

大学紛争に敗れた大学生は、リクルートスーツに身を包み、長髪を切って大企業にわれ先にと就職する。
小中高校生は、受験勉強に精を出して、ペーパーテストの偏差値の高い学校をめざし、学校の先生は教育委員会の下で、カリキュラムを平等に教育して、組織人に順応する教育をしてきた。

この組織人に適応し過ぎた日本人が、日本中に溢れてどうなったか? 本音(本能)とは違っていても、組織のルールを守っていれば、全体がうまくいっているはずだ、という間違った感覚を日本人全員が持つようになった。
ある意味、日本人全員が「金魚鉢に守られた金魚の魚群」になってしまったのだ。

大組織は、本来七つの海を、自由闊達に泳ぐ野生の魚が持っているべき、多くの機能を組織分業の中で分担し、与えられた機能以外の機能を果たしてはならない「職務権限規程」を設けている。つまり、金魚はやって良い事といけない事を職務上禁止されている。

例えば、財務部でもないのに、勝手に会社の金庫を営業マンが開けてはいけないし、隣の部署の仕事に如何に関心があり、能力があろうとも、手を出してはならないことになっているのだ。

かくして、21世紀、東西冷戦構造が崩壊し、新しいグローバルな世界環境が訪れ、変化の時代で、円安時代も終了した今日、19世紀から20世紀の前半に日本中にいた、野性的な七つの海をまたにかけて活躍しようとする日本人の復活が、求められている。
にもかかわらず、現在の日本のリーダーたちは、金魚鉢の中でエリートとして出世した優秀な金魚また金魚である。
金魚は自ら組織のルールに魂を売ることで、責任を金魚鉢のせいにして、定期的に得られる餌を待って、尻尾をひらひらさせながら、ゆったりと惰眠をむさぼっている。東京電力だけでなく。

私は、21世紀となった今こそ、金魚鉢を割り、自ら七つの海に泳ぎだし、苦い塩水を飲み、大魚に追い掛け回され、嵐や津波を生き延び、堂々と大海を泳げる日本人が、一人でも多く出現することを期待して仕事をしている。
野生の魚は分業ではなく、すべての他者の価値観を理解しようと観察し、行動を重視し、直観を上手に使って状況判断をする。野生の魚になるためには、分業されていた金魚鉢の、分断されていた機能や価値観を、自らの生き方の中に再統合しなければならない。
野生の魚となる生き方、それこそが求められる起業家となる生き方である。
いわんや、高度な組織活動が起業活動につながる、と誤解をしている20世紀型組織人社会をいまだに信じている政治家や役人や教育者は、市場から退場を求められている。

故スティーブジョブズが言った「Stay hungry, stay foolish」の私なりの解釈である

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