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第9回:モダン・アートと地域振興
  香川県の直島に行ってきました。高松から船で30分ぐらい。人口はおおよそ3000人ちょっと。瀬戸内海に浮かぶ小さな島です。

 この小さな直島のたどってきた軌跡は、まさに日本の戦後の発展の歴史です。直島は、20世紀初頭までは農業や漁業を中心とした島でした。ただ、徐々にその第1次産業が行き詰まりを見せてきたため、企業を誘致して産業の転換を図ったのです。三菱の製錬所の受け入れでした。製錬所を中心とした企業城下町を創ることで活性化させるための誘致です。

これは大きな成功を収めました。島は企業城下町として大きく発展していったのです。所得が増えると同時に、人口も増えました。税収も増えて、インフラも整ってきました。第1次産業から第2次産業への転換によって経済的に豊かになった日本の島なのです。しかしながら、製錬所からの亜硫酸で山は禿げ上がってしまいました。まさに、日本が経験した公害と同じです。また、日本の金属製錬が国際競争において競争力を失っていくとともに、島の人口は減り始め、かつての活気もなくなっていったのです。
▲直島全体がアートであるのと同時に、
そこから見える瀬戸内海をアートと融合させているのです。だからこそ動かせない。ここに来るしかないのです。
▲神社を利用したアートです。
外からみると驚きはあまりないのですが、これ、中に入るとすごいのです。

ここから直島は少し違った方向に進み始めます。直島町の町長とベネッセが協力して、直島を「文化」を中心に再興しようというプランができてきたのです。しかも、それは日本の新しい文化です。建築家の安藤忠雄さんを中心にデザインされた地中美術館や、古民家や神社をモダン・アートと融合させる家プロジェクトなどが創られてきました。まるで、島全体が1つのアートであるかのようです。人口の減少は急にはとまりませんが、多くの人が訪れるようになった。海外からの人も少なくない。古民家を利用したカフェや民宿も増えています。移住するアーティストもでてきました。

 日本で世界的な観光地と言えば、奈良や京都です。ただ、ベネッセの福武總一郎さんが言うように、奈良や京都が良いというのは、1300年ぐらい前の日本人は良かったというのと同じですよ。この直島のアートのプロジェクトは、昔の日本人も良かったけど、今の日本人も悪くないぞ!というものなのです。

 しかも、直島は世界のマーケットを見ている。日本の観光地やリゾートで、まともに世界のマーケットで競争しているところは本当に少ない。へんなのぼりが至る所にあって、一番良い場所にはコンビニ。景観はもうメチャメチャですよ。日本のスキー場で、どれだけフランスのシャモニーやカナダのウィスラーと本気で競争しているところがあるのでしょう。

 直島はしっかりとした美術館を創り、海外の知的水準が高い層をターゲットにしています。文化的な水準が高い層(つまり所得水準が高い層とほぼ同じ)をターゲットにした海外の旅行雑誌には、次に行くべき場所の1つとして直島が取り上げられているのです。まだ日本に行ったことがない初心者は、京都や奈良も良い。日本のサブカルチャーを見てみるのも良い。けれど、もう一歩踏み込んでみたいという海外の人たちから大きな注目を浴びているのです。

 しかも、このアートが賢い。大切なのは、2つ。まず、動かせないアートなのです。美術館そのものがアートの一部になっているため、動かせないのです。ここのモネは、ここでしか見られないモネなのです。そこに行って見るしかないのです。さらに、季節や時間、天気によって作品がまったく異なる様相を見せてくれる。直島の自然を作品の一部として使ったものが多いので、次は違う季節、違う時間に来てみたい!と思ってしまうのです。

 これまでは、日本の地域振興はその土地の伝統的なものをブランド化するというものや、企業を誘致するというものが多かった。直島のプロジェクトは、これらのパラダイムからは少し違うモデルです。50年、100年後も見据えたうえで、モダン・アートを通じて、世界のマーケットを見ています。地域振興にはいろいろなやり方がある方が良い。直島はまさにその1つのモデルを提示しています。

百聞は一見にしかず!ぜひ!
直島のサイトはこちらから http://www.naoshima-is.co.jp
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