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第11回:「やっていること」と「自分が何であるのか」のギャップ:Doing-Being Gap 
 先月は、分かっちゃいるけどやめられない(Knowing-Doing Gap)の話でした。実はこれは古くからある話しなのです。今、注目されているのがDoing-Being Gapです。Knowing-Doing Gapは、「頭でわかっていること」と「やっていること」の間のギャップだったわけですが、Doing-Being Gapは、「やっていること」と「自分が何であるのか」のギャップです。

 金槌持って家を建てていれば、それは大工さんです。お酒を造っていれば、酒屋さんです。魚を売っていれば、魚屋さん。お寿司を握っていれば、寿司職人です。
▲5年ぶりぐらいにノースウエスタン大学に行ってきました。たまたま出張だったのですが、相変わらずキャンパスはきれいでした。久々の母校(といってもたくさんあるのですが)は良いものです。
このように、何をつくっているのか、何のサービスを提供しているかによって、何であるのかが規定されてきたわけです。この時は、Doing(やっていること)とBeing(自分が何であるのか)の間のギャップはほとんど生じません。

 これが最近の技術の発展によって大きく変わってきているのです。たとえば、東レ。東レはレーヨン糸の生産からスタートした繊維企業です。戦後はナイロンのストッキングや靴下を作り、「戦後、強くなったのは女性と靴下」といわれるまでになったのです。衣服やその糸を作っていたわけですから、東レのBeingは当然、繊維屋さんとなるわけです。ただし、今では東レはその技術を生かしさまざまな分野へと事業を多角化させています。たとえば、DNAチップや飛行機や自動車用の炭素繊維、電子回路材料など、一見すると衣服用の糸からは到底思いつかないような事業ばかりです。こうなると、もはや東レのBeingは「何をやっているか」では分からなくなってきます。

 さらに、最終製品の消費のされ方も一様ではなくなってきています。たとえば、携帯電話。電話をかけるのを主として使っている人や、インターネットやメールをするために持っている人、便利な音楽プレーヤーとして使っている人、ファッションアイテムの一つとして持っている人など消費のされ方は様々です。こうなってくると、DoingとBeingのギャップは開いてきます。もしも、電話屋さんというBeingを持ち続けていると、重要な顧客を失うかもしれないのです。

 Beingの自己規定しだいでDoingが大きく変わってくるのです。もしも東レが衣料用の糸屋さんとしてのBeingを持ち続けていたならば、これほどまでに様々な事業に多角化することはなかったでしょう。Appleもそうです。もしもAppleがコンピューター会社としての自己認識を持ち続けていたとすれば、iPodやiPhoneは生まれていなかったでしょう。技術発展が早く、製品の消費のされ方が一様でなくなってくると、このDoingとBeingのギャップがだんだん広がっていってしまうのです。しかも、知らないうちのこのギャップは広がっていくから怖い。消費者が必要としていないレベルでのスペック向上の研究開発競争を繰り返してしまう企業などはまさに、古いBeingを持ち続けている結果なのかもしれません。
▲これは5年前のノースウエスタンでの写真。
まだ僕がサルだった時のものです。
  これまでは、Doing(やっていること)によって、Being(自分が何であるのか)が決まっていたのですが、これからはBeing(自分が何であるのか)が、Doing(何をしているのか)に大きな影響を与えるようになってきています。これは会社の事業領域だけの話ではありません。営業に出ている人も、実際にモノを作っている人も、研究開発をしたり、企画を考えている人も、古いBeingに取りつかれているとどんどんDoing-Being Gapは開いていってしまいます。そうすると重要なチャンスを逃してしまう。自分のBeingを少し変えてみると、違ったDoingの可能性が大きく広がってくるかもしれません。あなたのDoingとBeingは本当にあってますか?




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