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第32回:イノベーションを群生させるためには、インバランスとボトルネック!
 第30回の雲外蒼天では、今回の震災は日本の経済や社会を大きく変えるようなイノベーションを生み出す大きなチャンスだということ書きました。では、このチャンスを活かすためにはどうしたら良いのでしょうか。イノベーションという観点からすると、インバランス(不均衡)とボトルネックが大切になってきます。
 技術や組織、ビジネスモデルや市場などは通常はバランスがとれている状態にあるのですが、何かの拍子にそのバランスが崩れる時があるのです。バランスが崩れる時ほどチャンスなのです。
イノベーションは群生します。ある場所や時代によって、イノベーションがたくさん起こったり、あまり起こらなかったりします。これにはバランスがとれている状態ではなかなかイノベーションは生まれないのですが、一度インバランスが発生すると、どんどんイノベーションは連鎖してくるのです。

 例えば、歴史的に見ると、イノベーションが最も群生したのは産業革命期のイギリスでしょう。そこで最初にバランスが崩れたのが、布を織る技術と糸を紡ぐ技術との間の生産性のバランスです。1733年にジョン・ケイが飛び杼を発明して、布を織る生産性が格段に向上しました。糸が足りなくなったのです。布をたくさん織りたくても、糸がないのは問題です。糸を紡ぐ技術がボトルネックになったのです。その結果、このボトルネックを解消するために、ジェニー紡績機や水力紡績機などが発明されていったのです。イノベーションがイノベーションを呼んだのです。

 アメリカでも19世紀にイノベーションの連鎖が起こりました。大陸横断鉄道が1869年にできるまでは、アメリカは東部、西部、南部とそれぞれ市場は分断されていました。市場が小さかったため、企業の生産や販売の規模も小さいものでした。しかし、大陸横断鉄道ができることによって、それまで分断されていた市場が1つの巨大な市場として統合されたのです。つまり、市場と企業の間のバランスが崩れたのです。アメリカでいわゆる「大企業」が発生したのは、このインバランスを解消するためだったわけです。そこでは、大量生産システムや大量販売のための流通網、それらを管理するために管理会計や組織のマネジメントなどのイノベーションが次々と生み出されてきたのです。

 イノベーションの連鎖においては、インバランスがとても大切になるのですが、より重要なのはボトルネックがどこにあるのかの認識です。ボトルネックがどこにあるのかが分からないと、なかなかそこに資源が集中的に投下されません。ボトルネックがどこにあるのかを明確にして、それを発信し続けていくことがとても重要です。

2030年までに総電力における原子力発電の占める割合を50%にするという政府の決定は、事実上達成は無理でしょう。しかも、あと30年もすれば日本の原子力発電所の多くは寿命をむかえます。CO2も削減しないといけないですから、火力発電にこれまでのように頼ることも難しい。この場合、需要側のボトルネックは何なのか。再生可能エネルギーの本当のボトルネックは何なのかについての明確な認識がまだあるわけではありません。今行われているのは、節電などの全方位的な小さな努力の積み重ねです。

小さな努力の積み重ねも大切なのですが、全方位的な努力の積み重ねをしているとどうしてもボトルネックがぼやけてしまいます。小さな努力の積み重ねは、技術や市場、組織などの間のバランスが比較的とれている時にはとても効果的なのですが、大きくバランスが崩れている時には逆にボトルネックを曖昧にしてしまう効果があります。

 これは企業のマネジメントにおいても全く同じです。ボトルネックをぼやかしてしまうと、イノベーションの連鎖はなかなか望めません。自分の組織のボトルネックがどこにあるのかを明確にできれば、イノベーションの連鎖が生まれやすくなるのです。3Mのように売上高に占める新製品の比率を決めてしまうということなどは、組織内に意図的にインバランスを生み出すようなマネジメントです。あなたの組織のボトルネックはどこですか?


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