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第37回:規制が強いところこそ
  東京医科歯科大学の医療管理政策学(MMA: Master of Medical Administration)で2年前から「戦略と組織」というコースを担当しています。MMAというのは、病院の経営や医療政策などについて学ぶマスターのコースです。医療関係者のMBAと言っても良いかもしれません。

「戦略と組織」コースの最初に、イノベーションについて、少しクラスで考えます。病院の経営におけるイノベーションとは何でしょう。医療政策におけるイノベーションとは具体的にはどのようなものなのでしょう。こう考えていくと、なかなか難しい。

病院の経営の効率化は日本の医療費削減という観点からも重要な課題です。ただし、儲けだけを考えて良いかといえばそれだけではありません。 
▲MMA:東京医科歯科大学です。MMAから日本の医療の創造的破壊を!
いくつかの複雑な方程式を解かなければいけません。政府による規制が強い業界でもあります。「ここは政府の規制だから変えられない」、「ここは1つの病院ではどうしようもできない」ということが続々でてきます。

 ただし、病院経営や医療政策におけるイノベーションを考えていくほど、ビジネスの力が大きく発揮できる潜在性が高い分野だということが分かります。もちろん、教育や医療は市場メカニズムに任せられない部分も多くあります。ただし、そこは0か1かの選択ではないはずです。ビジネスやマネジメントの力が大きな成果を上げる余地は大きいはずです。

 現在、ビジネスの力で、社会の問題を解決していこうという試みが大きく注目されています。ソーシャル・イノベーションと呼ばれています。代表的なものでは、バングラデシュのムハンマド・ユヌスさんのグラミン銀行によるマイクロ・ファイナンスでしょう。貧困に苦しむ人々に、少額のファイナンスをすることによって、生活の水準の向上に寄与しています。人々は借りたお金を基礎に、工芸品を作ったり、食料品を販売したり、自らで生活の糧となるビジネスを行なっていくのです。貧しい地域に図書館を建て、子どもたちに本を読むチャンスを提供しているルーム・トゥ・リードのジョン・ウッドさんも、それまでのNPOに欠けていることが多かったマーケティングを、ファンディングの際にとりいれています。バングラデシュのジュートを使ったバックでマザーハウスの山口絵理子さんも、ビジネスの力で社会を変えている一人です。

 もともとビジネスで始まったものが、大きな社会問題の解決に貢献していることも少なくありません。例えば、小倉昌男さんのヤマト運輸の宅急便のビジネスはまさにそうでしょう。それまで郵便局が行なっていた小口の小包の配送サービスを、ビジネスによって大きく効率化したのである。もはや宅急便は社会のインフラになっているだけでなく、大きく政府の支出を削減していると言っても良いでしょう。

 医療は規制が大きい産業です。市場に任せておいては、上手く機能しないために規制がなされているわけですから、規制そのものが悪いというわけではありません。しかし、規制産業の多くは、その背後には大きなイノベーションの機会があるのです。ヤマト運輸の小倉さんも宅急便の事業化の際に、運輸省の規制を創造的に破壊し、大きな価値を創り上げたのです。

 医療問題を上手く解決している国はまだないかもしれません。しかし、日本には技術力の高いエレクトロニクス産業もあります、高い技術を持った医師も多い。だからこそ日本初のイノベーションの余地も大きいはずです。電子カルテ化やそのクラウド化による顧客(患者)主権の確立、ダ・ビンチなどの手術支援ロボットなどに代表される医療機器の進歩による遠隔診断や遠隔治療、市場(顧客)の高齢化、医療保険制度の問題など、大きく環境が変わろうとしています。環境が変わる時には、かならず既存のシステムの間にインバランスが生じます。そのインバランスこそがイノベーションの種です。インフラを創って輸出できれば、その効果は絶大でしょう。


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