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第40回:「温泉・ゆるキャラ・B級グルメ」3点セット
 最近、地域の産業の活性化のお手伝いをすることがいくつかありました。経営学の観点からイノベーションを考えるのが僕のバックグラウンドになるので、「優れた技術を持つ中小企業を上手く結びつけるオープン・イノベーション」や「イノベーションと経営戦略」などが中心でした。

 これが面白いのです。大手の下請けとして技術力を高め、日本の競争力の源泉の一つとも言えるような産業集積を創り上げてきた中小企業が、大手メーカーの海外移転などに伴い、新しい方向を模索しているのですが、とにかく技術力は高いのです。技術はあるのですから、あとは価値づくりの戦略が重要になってきます。これを一緒に考えるのは、日本の製造業の新しいカタチが見えてくるようで、エキサイティングです。

 このようなお手伝いをするために、いろいろなところに行くのですが、そこで気がついたことが、地方活性化3点セットです。「温泉・ゆるキャラ・B級グルメ」の3点セットをどこに行っても目にするのです。

 まずは、温泉です。火山の多い日本では、温泉のない県はありません。日本全体で、5万件以上の温泉があります。1980年代末の竹下内閣の“ふるさと創生事業”によって交付された1億円で、日帰り温泉の数もかなり増えました。みんな、確かに、温泉大好きです。

 2つ目は、ゆるキャラ。目にしたことがない人はいないかもしれませんが、地方に行くとどこもゆるキャラであふれています。ゆるキャラ(R)グランプリも開催され、全国からゆるキャラたちが集まり、去年は熊本の「くまモン」がその栄冠を勝ち取りました。(一橋大学のある隣の町の西国分寺の「にしこくん」が3位になっていたのは驚きでした。)

 そして、3点セットの最後は、B級グルメです。伝統的な郷土料理ではなく、焼きそばやカレー、ラーメンや揚げ物といった価格の安い外食のメニューです。2006年からB-1グランプリが開催され、それぞれのご当地B級グルメのヒットを生み出そうと競争しています。ちなみに、去年、ゴールドグランプリに輝いたのは、岡山県真庭市の「ひるぜん焼きそば」です。シグバーグランプリは、同じく岡山県の津山市の「ホルモンうどん」でした。岡山県が頑張っています。

 とにかく、どこに行ってもこの3点セットです。確かに、ゆるキャラやB級グルメなどは国内では注目を集めています。「食べてみたい!」と思うB級グルメも確かにあります(「グッズがほしい!」と思うゆるキャラには僕は出会っていませんが…)。

しかし、この3点セットで地方の活性化を競うことは、経営学の競争戦略論の観点からすれば、これは最悪の戦略です。競争戦略論には、自社の持っている資源の観点から考えるリソース・ベースド・ビューと呼ばれるものや、業界での自社のポジションを考えるポジショニング・アプローチなどさまざまなものがあります。しかし、どの考え方にも共通しているのは、「差別化」です。「他社と同じことをやる」のは競争戦略では最も悪いアプローチなのです。3点セットで競争するというのは、すでに競争の枠組みがある程度決まってしまっているので、大きな差別化が難しいのです。

 さらに、この3点セットはガラパゴス化してしまうのです。この3点セットのうち、ゆるキャラやB級グルメのターゲットは、日本という文脈を共有している人でないとなかなか楽しめません。その文脈を共有していない人に対して提供できる価値は高くないのです。また、どこもかしこも、この3点セットで競争するわけですから、それぞれの中身は高度化されていきます。ゆるキャラの数はどんどん増えてきますし、B級グルメもB級なりにどんどん美味しくなります。しかし、日本の人口は増えていきません。どうしても狙っているターゲットは小さいのです。高い技術で独自の進化を遂げたいわゆる日本の「ガラ携」と同じです。技術は高度化していかなければ競争に勝ち残れないけれど、需要は小さくなっていくという構造です。これでは、高い経済的な付加価値を生み出すのは難しいのです。

 経営戦略論の観点からすれば、「温泉・ゆるキャラ・B級グルメ」の3点セットという土俵で競争するよりも、この競争を上手く逆手にとるような戦略が長期的に持続可能な価値を生み出します。この3点セットで競争する地方が多くなればなるほど、そこから自動的にこぼれ落ちてくる需要が発生するのです。例えば、知的好奇心が高いハイクラスの観光客は、ゆるキャラがウロウロするホテルに泊まりたいとは思わないでしょう。テレビすらない方が良いのです。食べたいのは急造のB級グルメではないでしょう。彼らがほしいのは、知的好奇心を満足させるものであり、ワールドクラスの質の高いサービスです。だからこそ、ベネッセの直島のような空間が、世界で高く評価され、大きな価値を生み出しているのです。

 みんなと同じ土俵で競争するのは、楽なのです。競争のルールも自分で考えなくて良いわけです。しかし、競争戦略の観点からすると、みんなと同じ土俵で競争していては高い価値は決して生み出せません。競争の軸の変革こそが、良い差別化なのです。

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