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第45回:組織の力
 アイヒマン実験という社会心理学でとても有名な実験があります。アメリカの心理学者のスタンレー・ミルグラムによって行われたとても有名な実験があります。これは、第2次世界大戦の時に、ユダヤ人を収容所に輸送する責任者のアドルフ・アイヒマンにちなんで、アイヒマン実験と言われています。
 この実験は、人間はある組織的な環境におかれるといかに「ひどい」ことを平気でしてしまうかということを私たちに見せてくれています。少し実験の内容を見てみましょう。

 あなたは、これから、記憶に関する実験に参加してもらうために、小さな部屋で機械の前に座っています。部屋の窓からはとなりの小部屋が見えます。そこには、記憶に関する実験の被験者が椅子に座っています。
 さて、記憶のテストのスタートです。単語のテストです。部屋のむこうで座っている被験者が応えていきます。被験者が間違えた場合に、電流を椅子に流すのがあなたの役割です。電流が流れるスイッチを押す係なのです。椅子に電気を流す機械はあなたの部屋にあって、もちろん、被験者からはあなたは見えません。被験者が、問題を間違えるたびに、電流は大きくなっていきます。もちろん、あなたは電流のレベルが上がっていくとともに、スイッチを押すのを躊躇します。テストに間違えた被験者は、かなり苦しがっています。しかし、あなたの横にいる実験者が「良いのです。スイッチを押して下さい」と言うのです。

実は、この実験の被験者は向こうの部屋で単語のテストに答えている人ではなくて、「あなた」なのです。単語のテストに答えている人は、実は、実験者のメンバーで、わざと間違えたりしています。あなたが、どのレベルまでの電流のスイッチを流すかを調べる実験なのです。
 この実験では、多くの人が最高レベルの電流のスイッチを押したのです。椅子に座っている人が絶叫しても、電流を流すのをストップしてくれと懇願してもです。多くの人は、倫理的・道徳的におかしいと一見思うようなことでも、組織において正当性(この場合、実験者からの「スイッチを押して下さい」という言葉)が与えられると、その一線を超えてしまうという実験結果なのです。誰もがアイヒマンになる可能性があるということを示唆する実験結果であり、大きな反響を呼んだのです。

 このアイヒマン実験が示しているのは、行動の正当化を与えてしまう組織の力です。この視点からすると、ある特定の企業家を大きく賞賛したり、組織の成員を批判したりすることよりも、どのような組織の力がそこにあったのかを考える方が重要になるのです。現代は、組織の時代とも言われています。多くの人は複数の組織に所属して、社会生活を送っています。組織が個人にどのような行動を促しているのかはとても重要なわけです。
 この実験は、『服従の心理』 (河出文庫) スタンレー ミルグラム、 山形 浩生(翻訳)として手に入ります。いじめ問題や、組織のモラルハザードなどにも示唆に富む一冊です。「暑い夏に、無骨な本を!」とお考えの方には、社会心理学の専門書ですが、ぜひ。


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