刎頚の交わり

生死をともにすることもいとわないようなきわめて親しい交際のことをいいます。たとえ相手のために首がはねられるようなことがあっても後悔しないということを表わしています。

   真の友情を表現する中国の成語としては「管鮑他の交り」「断金の契り」「金蘭の契り」などがあります。なかでも「刎頚」は、首をはねられてもいい、ということですから、最も強烈な印象を与えます。
              
「管鮑他の交り」は古代中国の斉の名宰相であった管中と、彼の親友であった鮑叔牙との物語りから生まれたものです。親友であった二人は、斉の王位継承をめぐって敵味方に分れ、この争に敗れた管仲は打ち首にされることになりました。しかし、管仲の才を知る鮑叔牙は王になった桓公を熱心に説得して遂に彼の救命に成功し、さらには宰相に登用して国政の全権を委ねることになったのでした。

 管仲は若いころ何度か鮑叔牙を裏切るような行為があったのですが、彼の家が貧しく老母がいることを知っていた鮑はそれを許したとのことです。
 「断金の契り」は、金属を断ち切るほど二人の心がピツタリ合っていること、「金蘭の契り」は、堅い結びつきの上に蘭の花のような高い香りがあると評したものです。

 中国では、美しい友情の物語りが多く伝えられていますが、わが国ではあまり見出すことができません。また現代の生活の中でその例を説くことも少ないようです。

 筆者の周囲を見ても、戦争や身辺の激しい変化によって、それらしい関係は絶たれ、消え去ってしまっています。それだけに現在保たれている友人との関係をできるだけ大切にしたいと考えるのです。
 また、ブラジルのリオに5年半駐在したときには、外国の人との間に友情が芽生え、深い交際をすることができました。
 ご承知のとおり南米の諸国ではしばしば革命が起こり、軍事政権が権力を握るようになると身に危険が及ぶこともあります。
 政府を動かすような大型商談になると、政権の移動はビジネスに直接関係していきます。政商といわれる人びとは、危険を予知すると、海外へ逃避してしまうこともあり、官憲の追求についても実に敏感です。
 そして、そのような情報は一般には流れません。ましてや外国企業の私達には知るよしもありません。大使館を含めて、極秘情報を入手するのは至難のわざといってよい状況でした。
 しかし、家族ぐるみで友人になって、その人の別荘に泊まったりしているうちに、極秘の情報を危険をおかして、なにげなく教えてくれたのでした。
 友情は国籍や民族を超えて生れます。帰国の際に、その友人から「どうしてお前は帰るのか。何時にもどってくるのか」と真剣に問われたのには感動しました。
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