鶏鳴狗盗

鶏の鳴声の真似が上手だったり、犬の恰好をして泥棒をするのがうまいなど、つまらない芸とされていることに達者でも、思わぬ時に役に立つものです。

 「史記・孟嘗君列伝」の故事から引かれた熟語です。まず、その物語の槻要を述べましょう。
 中国の戦国時代の賢人である斉の孟嘗君が、秦の昭王に捕えられたとき、犬の鳴声の名人で、こそ泥を得意とする人物を使い、白狐の皮衣を盗みださせ王の寵姫に献上して釈放されたのです。さらに函谷関にのがれた際、関門が深夜で閉ざされていて窮地に立たされました。そこで鶏の鳴声の名人に一番鶏の鳴き真似をさせたのです。すると、本物の鶏がそれにつられて鳴きだし、門番は朝と感ちがいして開門してしまい、孟嘗君はまんまと逃れ去ったというものです。

 いずれにしても、中国ではあまり良い例としては語られず、卑しいつまらぬ芸をすることを言うようです。
 しかし、私がこの熟語を取り上げたのは、むしろ良い意味で、「つまらぬ芸のように見えても、役立つときがある」というように肯定的に考えてみたいからです。
 趣味というと、とかく高尚な芸道や、学問的な興味のことを指すように考えられがちですが、必ずしもそうではないことを強調したいと思います。趣味に上下はなく、つまらぬ芸だとか、つまらぬ知識というのは当たらず、趣味という以上は、イーブン・チャンスと見てよいのではないでしょうか。

かつて宴会で、小唄や常磐津などが歌われたこともあるようですが、現在ではカラオケなどが一般的で、普通のサラリーマンは芸なしといっても過言ではありません。
 ものまねでも、「長嶋濫督のものまね」「森繁さんのものまね」などを聞くことがあっても、あまり感心したものはないようです。

 宴席やミーティングの打上げ合などに、なにか即興でできるような芸を仕入れておくことはどうでしょうか。
 たとえば、トランプの手品とか、切り紙、江戸小噺、英語小噺なども芸のうちといってもよいでしょう。西欧の人びとは冗談ばなしが大好きで、日本人が結構登場します。また、無人島の寓話や、多少エッチな内容もありますが、注意して集めておいて、話題がとぎれて座興が必要なときなどに輿ずることで先方とのコミュニケーションを助けます。

 地名の起源や、民話などにくわしいのも一つの芸かもしれません。
 ごく一般的なサラリーマンの話題といえばゴルフ、マージャン、それにスポーツ関係ですが、無難にはちがいありませが、あまりに策がなさすぎるといえます。

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