第31回:長くいるとヤバイけど楽しい
シカゴの時から始まったこの連載ももう合計で56回目となりました。たまにこれを読んでいただいた方からメールを頂くことがあります。同じ大学に通っている方、通う予定の方、通いたいと思っている方からのメールや、「ロンドンに住んでいるのですけど、お米はどこで買えば安いですか?」というお米を安く買いたい方からのメールもありました。そんななか「これから大学院進学を考えているのだけど」という方からのメールもいくつか頂きました。

大学院とは、大学に「院」がついたものです。社会には、少年院や病院など「院」とつくものがあります。そのままほっておくと、社会で上手く生活できなかったり、何かの病に冒されていたり、何らかの処置が必要な人を収容するのが院と名の付く機関の役割です。

大学院も同じです。明らかに社会で上手くやっていけていないような人が多くいます。しかも、少年院や病院のように、社会生活をきちんと送れるような処置が大学院でされているかは疑問です。わけの分からない本や論文を大量に読まされたあげく、長時間議論することを強いられます。

いいがかりとしか言いようのない意見しかでてこないときもしばしばです。こういったトレーニングをさせられる結果、より社会に不適合になる可能性があります。長くいればいるほど、そこから抜け出て社会に復帰するのが難しくなります。入るよりも、出るほうがずっと大変です。この点では、ヤクザに良く似ています。

修士課程のうちに抜け出れば、良いですが博士課程にまでいってしまうと自体は深刻です。博士課程に進学した上で、いくつかの幸運が重なると、博士号がもらえるかもしれません。ただし、博士号をもらえたとしても、特に何の役に立つわけでもありません。弁護士や会計士のように、「博士号」をもっていないとできない排他的な業務があるわけでも、もっているとガソリンがやすくなったり、マイレージのポイントが倍になったりすることも今のところありません。

 大学院に行くと、それ相応に年をとります。入院生活がながくなり、博士課程にまで行ってしまうとかなりの年をとります。たいした収入もありません。婚期も遅くなります。大学院の時に結婚すると、妻に一生頭があがらなくなります。社会人できちんとした収入がある中で結婚したとしても、妻にさからえる夫がどれだけいるかは疑問ですが。

 こんな大学院ですが、いったん入ってしまうと結構楽しいのです。中学校や高校の教科書の脚注に小さく出ているほどのことについて、延々とわけの分からないことを議論するのです。しかも、だいたい結論は出ません。最終的な結論は出ないのですが、些細なことでも様々な角度から考えてみる、しかもみんなで考えてみる。

僕が知っている大学院は、日本、アメリカ、イギリスだけですけれど、それらの間ではどこも大学院でやることは基本的には同じです。もちろん、言葉が違ったり、競争が激しかったり、激しくなかったり、食事が美味しかったり、まずかったりするわけですが、どこでも新しい知識を生み出そうとしていることには変わりはありません。社会不適合が深刻にならない程度にこういう時間が人生にあっても良いと思います。何より、新しいことを考える、新しいアイディアを生み出すって楽しいんですよ!
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