第32回:RAEがやってくる。
ウェールズの海です。この下にはたくさんのペンギンに似た水鳥たちがいました。ウェールズなかなか良かったですよ。ぜひ!

 イギリスの大学はほとんどが国立大学です。有名なオックスフォードもケンブリッジも国立大学です。私立はバッキンガム大学だけ。国立大学にとって大切なのは資源配分です。どこの大学もできるだけ多くの予算をもらいたいわけです。教育に割り振られる資源は限られていますから、大学はお互いライバルとなります。できるだけ多くの予算をもらおうと悪戦苦闘する日本の役所と同じです。

どうやって大学に研究資金が配分されるのかというと、接待や水増し請求ではなく、RAEによる評価です。1980年代にRAE(Research Assessment Exercise)と呼ばれる研究業績評価制度が導入されました。RAEでは全大学の全学科にたいして点数が付けられます。満点は5*点。1〜2点しかとれなかった場合には、研究資金は全くナシになります。3点の場合でもわずかな研究資金が配分されるだけです。5点とれると特別の研究資金が配分されます。分野にもよりますが、だいたい5点をとれるのはイギリスで10校程度。研究資源を分散的にばらまくよりも、限られた資源をトップ10校に重点的に配分して、大学の国際競争力を獲得しようとする制度です。

トップ10校ぐらいになっておかないと研究資源はかなり限られたものになります。研究資源がないと、どうしても研究機関としての活動は苦しくなります。そのため、RAEをできるだけ上げるように競争が起こります。RAEはランキングされるため、その競争はまるで受験競争のようでもあります。

 RAEの点数を上げるためには、研究で業績をあげていかないといけません。先生たちは、一流のジャーナルへの論文数や出版された本の数、本や論文の引用数などで評価され、大学院生は論文の数、学会発表や学会賞で評価されます。RAEは大学のファカルティの採用や、大学院生の合否にも大きな影響を与えています。大学側は、ファカルティを採用する時には、RAEに貢献できるような人材を採りたいわけです。一流のジャーナルにどれだけ論文を載せているか、どれだけ引用されている論文を多く持っているか、あるいはそのポテンシャルが職を得られるかのポイントになっています。大学生や大学院生を選ぶ時にもRAEへどれだけ貢献できそうかが大切になります。

 RAEのポイントはアウトプットベースの評価と資源配分だということです。評価はすでに発表された研究上の業績のみに基づいてなされます。アウトプットベースの評価は、評価される側にとってはつらいです。アウトプットは具体的な数字で出されます。常に、成果をだしていかないといけないのです。反対に、評価する側はすごく楽です。どこの大学が優れた研究をしているかは、論文数や引用数などのアウトプットを見ればすぐに分かるからです。水増し請求なんて問題もありません。

 もしも、インプットベースの資源配分だったとすると、大学側は、これからやる予定のプロジェクトや研究の提案をし、それにどのくらい予算が必要かを申し立てすることになります。まだ始まっていないプロジェクトへの評価は当然主観的となります。予算の要求は当然多めになされます。もしも、予算が消化しきれずに余ってしまったときには、当然、どうでも良いことに使われていくのです。

RAEはかなり大掛かりでかつ細かい評価であるため毎年行われるわけではありません。前回のは2001年に、次回は来年です。今は、イギリスの大学はどこでも、先生たちの研究業績、大学院生がどのような賞をもらっているか、卒業生がどこに就職し、どのような業績を上げているのかなどを猛烈に調べています。リサーチアシスタントとして僕も手伝っていましたが、これが結構大変なのです(もうそろそろ調べ終わる頃ですが)。RAEのアウトプットベースの評価は、資源の効率的な利用と大学間の競争を促しています。RAEによって、いったん沈みかかったイギリスの大学の研究水準は再び大きく上昇していると言われています。イギリスの大学に留学予定の方は、注目してみてください。(2001の結果についてはhttp://www.hero.ac.uk/rae/ で見られます。)

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