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創考喜楽

先人の知恵を拝借 故事百選 坂本宇一郎 著

以心伝心

いしんでんしん・・・・・
口で表現しなくても、心と心とが通じあうことです。お互いの気持ちが、日常的なコミュニケーションで通いあっていれば、表情や動作だけで十分に意志が伝わるものです。

 日本人のコミュニケーションのあり方の代表的な表現ですが、誰でもその起源が分かっているようで意外に知られていませんので、やや詳しく説明してみましょう。

 

まず、出典は「伝灯録」五祖大師のことばとして、「仏滅後、法迦葉に付し、心を以て心に伝う」と記されております。もともとは仏教の教えから出たものです。
お釈迦さまが、ある日お弟子を集め、蓮の花をつまんで皆に見せ、一言も発しないで立っていました。すると高弟の一人である迦葉は一人だけニッコリ笑ってその意味を悟ったのでした。お釈迦さまは、「私の教えには仏教の基本となる種々の教義があるが、たいへんデリケートなものである。言葉では表わせないものが多く、その部分は迦葉に伝えたことにする」と述べたとのことです。
わが国では、禅宗の好題目でしたから、広く知られるところになり、そして一般化して使われることになったのです。

 

俗言の中に「目は口ほどに物を言う」とか「言わぬが花」とか「言うだけ野暮」などというものがあります。あえて口に出さないでも、十分に相互の意志が通じあえるし、口に出さないで心を通い合わせる方がスマートであるとさえ受け取られています。つまり、コミュニケーションが、非常に発達した状態といえます。
そのため、「口にだしてハッキリ言ってしますのを嫌う風潮」があり、このような風土に順応するのは一つの生活の知恵として認められています。
正論をやたら振りまわしたり、デリケートなことをヅケヅケ言ったりすることは、一つのグループから村八分になってしまう危険さえあります。
このような日本人の心情に対して、国際的なビジネスを教育している側からの批判が起こり、「甘えの構造」や「もたれあいの組織」は、外国では通じないから、Yes、Noを明確に言い、自分の意見をキチンと表す技術を身につけなければならないようになりました。

 

たしかに、アメリカ人を中心とするアングロサクソン系のビジネスマンに対しては、明確な意志表示が大切で、あいまいな返事は先方を当惑させてしまいます。遠慮や暗黙の了解は先方には通じません。したがって、日本人どおしで分りあっても先方には通じないケースが起こり「日本は閉鎖社会で、人びとは心を開かない」などの酷評を受けることにもなったのです。

 

以心伝心