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創考喜楽

先人の知恵を拝借 故事百選 坂本宇一郎 著

可愛い子には旅をさせよ

 

かわいいこにはたびをさせよ・・・・・
自分が愛している子供を、保護のもとにおいて、外部と接触させないでいるとひ弱な子供に育ってしまいます。将来のために、旅に出して世間の風にあてるようにした方がよいという教えです。

 「獅子は子を谷底に蹴落す」という諺があります。百獣の王といわれる強い動物を育てるには厳しい試練を与えなければならないということでしょう。

中国でも、後継者について、「甘やかしすぎては、人間をダメにするから注意しなければならない」という戒めの言葉や、いろいろの逸話が残されています。

 

 俚諺には「人を成すは、自在にあらず、自在は人を成さず」とあります。これは「人は自分で思うようになる環境におかれると、スポイルされて駄目人間になるから、むしろ思うようにならない厳しい条件のなかで育てなければならない」と教えているのです。

 

 韓非子の言葉のなかに「凡そ人の重罰を取るは、もとより足るの後なり」というのがあります。これはやや難解ですが、「なに不自由なく育っている金持の子供は、なんでも十分手に入るから罰を受けるようなことはしないだろうと考えられがちだが、逆に、重い罰を受けるようになるのである」といっているのです。

 

 「子供に対する過保護の時代」といわれるようになって久しいものがあります。一方では、「一人っ子主義」「登校拒否」「いじめ」「中学校生徒の自殺の多発」などが社会問題化しています。

これらの一連の問題の原因は、「可愛い子には旅をさせないで、自分でいつも連れて歩く」ということに集約されてくるのではないでしょうか。

 

 最近、首をかしげたくなるような体験が頻繁におこります。子供づれのお母さんが、シルバーシートを占領して、子供を座らせてしまうのです。お年よりが前に立っても、もちろん席を譲りません。このような事例は決してめずらしいものではなく、子供への過保護、そして、社会生活のルールの無関心が、ますますひどくなるばかりのようです。このようなことは、世界中でどこの国へ行っても見られないことです。

 

 「中学生の自殺」は、物不足や貧しい生活が原因ではなく、「足るの後」つまり十分に満ち足りた生活だから起こっているのです。「いじめ」は、なにも最近始まった子供の世界のトラブルではありません。いつの世にも、どこの国でも、日常におこる事象であり、特定の子供に集団的に攻撃が加えられるものです。その場合に、いかにして自分でその攻撃を克服するかを身をもって体験してこそ、一人前に社会生活に適応できる人間が育つのです。

 

 就職試験に母親がでしゃばってきたり、社会人になってからも、息子のために会社へ顔を出す親は、本人にとって、マイナスにはなってもプラスにはなりません。