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創考喜楽

先人の知恵を拝借 故事百選 坂本宇一郎 著

虚室、白を生ず

 

きょしつはくをしょうず・・・・・・
なにも入っていない空き部屋には、自然に太陽の光が入り明るくなるように、先入観を持たずカラッポの状態で人に接すれば、他人の意見や、アイデアの真意が素直な気持ちで受け入れることができるという意味です。

 この言葉は荘子のものといわれ、なかなか示唆に富んだものです。「虚」ということは空白の状態、なにもないということで、「虚心」ということはわだかまりがない心のことです。「嘘」という字は、口ばかりで中味のないことを表現しています。

虚栄、虚勢、虚礼など、わが国では、もっぱら悪い意味をあらわす熟語に使われていますが、「虚室」は「益心」と同じように、さっぱりとしてなにもない空の状態の部屋のことをいっているのです。表題の言葉に「吉祥止止」と続いていて、めでたいことが続々とおこると述べています。つまり心にわだかまりがあったり、物欲で凝り固まったりしている時は、他人のアドバイスが聞けず、人との交際もうまくいかないものです。すべての偏見を捨て、新しい考えを吸収していくことで道が拓け、やがては、その家にも良いことが起るのだと教えているのです。

 

他人の話を虚心坦懐の心境で聞くということは、なかなか難しいものです。
職場においても、相談に来た人の話を開き終わらないうちに、すぐ批判したり、結論を出したりするボスがみられます。管理者ともなれば、仕事についての知識が十分あり、また事業欲や様々な利害関係で頭が一杯になっていて、ゆとりがないために、部下の言葉はそのまま受け入れることが難しくなっているのです。
同僚や上司の忠告、第三者からの情報に対しても『心を空しくして聴く』という姿勢がないと冷静な判断で受け取められなくなってしまうものです。

 

英語でも同様のことわざがあり、”Higher you go,Harder to hear.”というのがあります。「地位が上がれば上がるほど人の話が聴きにくくなる」という意味で、東西でおなじような現象がおきるのだと感心しました。地位が上の人は、自分自身で反省を促して、より謙虚になるように心掛けなければならないということでしょう。

 

「無の境地」というといささか“禅”の修行のようですが、生れたばかりの赤子のような無心の心にもどることが、結局は人間関係を良くし順調な毎日を送ることにつながるともいえます。人間関係は複雑であり、さらに損得利害がからみ合っています。人々は様々な思惑にかられ行動していますが、時にはすべてを捨て去って虚心になることも必要でしょう。

難しい局面に遭遇したとき、初心に帰り、雑念を払うことによって、そこから抜け出す糸口がつかめるかもしれません。