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創考喜楽

先人の知恵を拝借 故事百選 坂本宇一郎 著

汗馬の労

かんばのろう・・・・・
他人のために並々ならぬ苦労をして働いている状態をいいます。また、地道な努力を重ねて、骨を折っている姿を表現します。

 まったく同じように使われている故事に「犬馬の労」があります。
こちらの方は「犬や馬が主人のために骨身惜しまず働くこと」をいい、へりくだった意味が含まれているようです。
さて、「汗馬の労」ですが、文字どおり、「馬に汗をかかせるような働き」ということです。中国故事のなかでは、いろいろの事例に使われているようです。
「韓非子」の文章に現れた訓言としては、国を害するものを5つあげた中で、「地道に汗を流して働いているものを退けるは厳につつしまねばならぬ」と戒めています。

 

権力者にへつらい、賄賂をむさぼり、重臣に私謁を用い、そして「汗馬の労を退く」ようなことはしてはならないと述べています。
また「馬に汗をかかせるような苦労はかけない」とか、「主人のために働く機会がこなかった」など否定的な用法も見られます。しかし、現代では、「犬馬の労」とほとんど同じように使われています。

 

わが国の俗諺には「縁の下の力持ち」とか「舞台の裏方」「黒子」など、表に出ないで働く人びとや表面に立たず地味な役割に徹する人の価値を評価する言葉があります。
類似の格言には「一将功なりて万骨枯る」というものがあります。
これは中国古詩(三体詩・巻一、曹松作)のなかに現れた語句ですが、多くの部下が戦死して、その犠牲のうえで、一人の将軍が手柄を立てたという意味です。これには「みずからが出世して偉くなるために、部下を犠牲にした」という、「うらみごと」のニュアンスが含まれています。

 

ちなみに、孫子の兵法をよく読んでみると、兵の損傷を最小限にしなければならないという心情がにじみでており、冷徹な判断だけで作戦指揮することを教えたものではないことが分かります。

 

事業を進めていく経営者が心しなければならないことの一つは、目立たない努力をしている末端の人びとの苦労を十分に評価するということではないでしょうか。韓非子は、国を害するものの一つは、「汗馬の労」を惜しまず、かげひなたなく働く人びとに手厚く報いる必要性を軽んじることであるといっているのです。

 

スタンドプレイが上手で、部下泣かせであるが、上司の受けがよいという人物を見かけます。
企業内にそのようなタイプの人が多く見られるということは、トップの姿勢がそれを醸成しているからであり、経営側の責任が少なくないと見るべきでしょう。

 

汗馬の労