新卒採用を見直そうの最終回。
即戦力は採用後に・・・・・。
能力のハードルを下げ、相性の合う学生を採用した場合、
即戦力化を図るための研修がより重要になってくる。
新卒採用にまつわる話としては今回が最後である。さてここまでで、これまでの能力重視の採用を相性重視の採用に改め、会社の理念や風土を新卒と同じ目線を持った若手社員から彼らに伝えるなどの方法をとりながら採用を行っていくことをお話した。実際に小職が手がけた企業の採用支援プロジェクトにおいても、上記の方針が採用され、一定の成果を収めている。

さて、能力のハードルを仮に下げ、相性の合う学生を採用した場合、即戦力化を図るための研修がより重要になってくる。職種にもよるが相性と能力はある程度の相関がある(性格特性と職業適性の関係などを考えれば、適職につけばそれだけ能力の発揮も早いと想定することはできる)。しかし、能力重視で採用した場合と明らかに傾向として異なるのは、以下の二点であろう。
・ 採用した新卒間で基本的な知識・スキルのレベルのばらつきが大きい
・ 能力重視に比べ自己実現の場としての企業に対する期待が大きい。
ここで重要なのは、新入社員の導入研修で上記を課題と捉えて、適切な対処を行うことである。

まず、採用時の新入社員の基本的な知識・スキルのばらつきに対する対処であるが、まずリテラシー(読み、書き、そろばん)を明確にすることからはじめなければいけない。この会社で仕事をする上で、必要最低限身につけておくべきものは何か、これを厳選して会社独自のリテラシーとするのである。
リテラシーの設定において重要なのは絞込みである。部門からの要請で必要スキルを積み上げると新人研修が冗長なものになりかねない。人事研修部門がイニシアティブをとり、必要最低限の厳選されたものを確実に体得させる様研修を組み立てる必要があろう。重要なのは全員に確実に体得させることを主眼におくことである。リテラシーとはあったらいいツールではなく、会社において生き残るためは必携のサバイバルキットである。研修する側は、新入社員の命を預かる覚悟で真剣に取り組む必要がある。
ちなみに、これは能力重視の採用におけるもう一つの問題であったともいえる。すなわち、会社として設定すべき能力基準ではなく、一般的な能力で序列をつけて採用をすると、いわゆるオーバースペックな学生が採用されてしまうことになる。これは学生にとってすれば入社後能力を活かしきれない上に、無駄な研修につき合わされでやる気をそがれるという事態を招く。更には、能力をもてあましてしまう様な学生の採用に、過度に資源を投下してことにもなるのである。

次に、会社に対する自己実現の場としての期待が大きいという点であるが、これは果たして課題であろうかと思われる方も多いと思う。自社の理念に共感し、一生自社でがんばろうという志の高い社員が採用できたのであるから喜ばしいことではないかと。しかし、ここが相性を重視した採用でしばしば起こる落とし穴である。

新入社員からすれば、会社の理念に感動し、一生の選択をしたわけである。そんな社員が現場配属になって、社長の経営理念に感動しましたと配属部署の上長に伝えたとき、上長は適切な反応をとることができるだろうか。また彼ら・彼女らのインストラクターは会社についてどう新入社員に伝えるであろうか。採用時に過度な演出は避けたつもりでも、会社の外と中では大なり小なり温度差があるのが普通である。

さて、対処方法であるが、キャリアビジョン形成を新入社員の段階で徹底することをお勧めする。キャリアビジョン形成とは、5年から10年程度の将来、自分はこの会社で何をしていたいかを具体的に考え、イメージするということである。これは配属とも絡むので、あまり突き詰めると、配属発表時に当人のやる気をそぐのではないかという懸念もあるが、そういった不条理も含め、彼ら・彼女らと真摯に向き合うことが研修担当者に求められる。彼ら・彼女らが戦力化するとは、社内で一角の者となり会社に貢献しているということである。そのためには、一日も早く会社での自己の未来像を鮮明に持ってもらうことが一番の早道である。新入社員の社会人としての希望を具体的なビジョンに変換し、待ち受ける現場の現実を越えて自己実現にベクトルをあわせてもらうことこそ、真の即戦力化と考える次第である.。

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