今月は再びワークライフバランスについて。
実現するために必要となる時間生産性の向上・・・・・・、
具体的にどんな方法があるのだろうか?
ワークライフバランスを実現するために、時間生産性を向上させる必要があるとして、具体的にはどんな方法があるのだろうか? 経営として採り得る選択肢は概ね以下の通りである。
・強制的に業務時間を制限することで業務のスピードアップを促す。
・管理職に時間生産性を高める動機づけを行う。
・能力開発により個々人の生産性を向上させる。
・管理職の能力開発により生産性を向上させる。

上記で多くの企業で見られ、かつ形骸化しているのが、強制的に業務時間を制限する方法である。いわゆる「ノー残業デー」を設定し、その日は早く帰宅することを促す。どの会社にもある制度だが、結局のところ他の日にしわ寄せが行ったり、正に形骸化したりしている。だが例外もある。

トリンプ・インターナショナル・ジャパンでは全社的にスタッフ部門で水、金曜日がノー残業デーであるが、その徹底ぶりがすごい。まずその日に残業をしたい場合、申請すれば可能であるが、部経費から罰金が取られる。また定時には総務課長が見回りを行い、申請がない部署については即座に施錠。かくれた残業は不可能だ。ここまでの徹底ぶりがあれば残業はさすがにできない。また他の日にしわ寄せが行かないように、「頑張るタイム」なる集中を促す時間帯を設けるなど、業務の高密度化を行うための工夫が行われている。当然ながら残業実績は管理職の業績評価に跳ね返ってくる。

しかし、同社が注目されるのは、他社がここまでできていないことの裏腹である。中途半端に業務時間を制限しても、上述の通り仕事は減らない。大量の業務を抱えながら、定時退社時刻に響く「ノー残業デーです。業務を切り上げて、早く帰りましょう・・・」といった館内放送は、社員のモチベーションには悪影響であろう。

次に、近年論じられているのが、管理職に時間生産性を高める動機づけを行うといった手法である。残業時間を欧米並みに割り増す、残業の量によって管理職を評価するといった方法がある。
しかし、これはノー残業デーほどポピュラーでもないし、効果も期待できない。なぜなら、やはり仕事量が変わらないからである。サービス残業に対する監視は厳しくなってきているとは言え、会社のロイヤリティは管理職に与えられた業務をこなすことで図られやすい。厳密な時間管理なしには、成立しない施策である。

ここまで述べてきたものは、いわば制度を作るだけで、生産性自体の向上に直接働きかけようとしない施策であった。なぜこれらがこれまで中心的に用いられてきたかと言えば、施策によって向上した時間生産性は、時間短縮に使われず、企業の収益向上に使われることが明らかだったからである。しかし、ワークライフバランスを実現するには、生産性向上が伴い、結果としてライフに対する時間が創出されなければならない。

ユニ・チャームで行われているSAPS経営は、個々人、管理職双方の時間管理能力を高めることで、ワークライフバランスの実現を目標としている。SAPSとは「スケジュール、アクション、パフォーマンス、スケジュール」の略であり、時間管理に関するPDCAサイクルといってよい。各人が週単位で優先順位の高い課題に対して時間を集中し、その成果を確認することで時間生産性を高めるサイクルが回っている。この制度は取締役クラスの時間効率を高めるためにスタートしたが、女性社員が主力である同社にとって、社員一人一人が時間を効率的に使い、仕事と生活(主には育児であるが)の両立を実現してもらうために全社に展開され、現在では経営管理のサイクルの中に定着している。

今回紹介した二社は他社に比べて女性社員比率の高い、女性向け製品を扱う会社であった。現状では先進的な企業とは言え、優秀な人材を囲い込み、少子化という社会的な要請に対応するためにワークライフバランスに取り組んでいるというのが現状であることを物語っている気がする。ワークライフバランス実現に向け、多くの企業が時間生産性の向上に真剣に取り組むことを願うばかりである。次回は、時間生産性の向上に加えて、個々人の多様な働き方を支援する取り組みについて概観し、多様化する価値観と人材のマネジメントについて論じてみたい。


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