個人の価値観は千差万別。
その価値観を「見える化」することにより
分かってきたことが・・・・・。
先月仕事観の話をした。その考え方に触発され、ある組織に対して、仕事に関する価値観を起点に、自分達の組織が抱える課題を考えるというワークショップを企画・運営する機会に恵まれた。今回はその時の様子をご紹介しながら、シェアードバリュー(共有された価値観)についてお話してみたい。

前回の続きで言えば、今回は企業理念やビジョンといった話になるわけだが、シェアードバリューは経営学では企業理念の部類に位置づけられるものであり、また経営と社員の接点となるという意味では最も重要な要素と考えられる。筆者が企業理念についてコンサルテーションを行う場合は、以下の三要素を議論するようにしている。
@存在意義:
その組織が社会に存在する意味。なぜその組織は社会に存在する意味をもっているのか?またはどんな使命をはたしているのか。
A 価値観(シェアードバリュー):
組織の構成員が共有するべき判断基準。存在意義を果たすプロセスにおいて、何を大切にするか。
B行動規範:
価値観に基づいて存在意義を果たそうとする際にとるべき行動や考え方。
並び順では存在意義が最も重要に感じられ、事実そうだが、こと人々をつなぐ際に重要となるのは価値観である。なぜなら崇高な使命も、価値観に会わないあり方で達成することは個人にとって極めて困難だからだ。逆に価値観が合うと困難な使命に対しても高い結束によって立ち向かう組織となる。

さて著者が取り組んだワークショップはこの価値観を今流の言い方で言えば「見える化」することからスタートした。参加者に事前に自分の価値観について考えてもらう。あわせて、自分の価値観に基づく理想の組織像と、それに向けた現状の課題を考えてきてもらい、ワークショップで皆と共有する。

価値観を「見える化」すると、それまで「価値観が合わない」という一言で済まされていた組織の積年の課題が、なぜ積年となっていたのかがわかる。組織には様々な価値観をもった人達が存在する。これを明らかにしないまま、組織の方向性や課題を議論しても、表面では合意した様に振舞っても、多くの社員が面従腹背といった状態になる。なぜなら、自分の価値観に基づく理想の組織が違うからだ。


ワークショップでの価値観議論は、大いに盛り上がった。価値観について議論すると、それに付随した過去の経験や物語が語られるからだ。ただ、声の大きいものにまかれて面従腹背をこの段階で決め込む参加者もでた。しかし事前に見える化のために行った課題に照らし合わせ、ゆっくりと議論を進める。最後には皆が共感できるシェアードバリューと言える価値観にたどり着くことができた。

個人の価値観は千差万別である。そこから直接的に理想を描けば、やはり理想も千差万別となる。しかし、先に共感できるシェアードバリューにたどりつければ、そこから描かれる理想は一つの方向性を持っており、皆が個々の価値観の違いを超えて共有できる理想となりうる。一方、皆事前に用意した個々の理想や課題は、自分と組織の距離を測る材料になる。自分と組織の関係を考え、自分が何に対してなら真剣にコミットできるのかが浮かびあがる。そこにあるの組織の価値観の盲目的な受け入れではなく、等身大の貢献、コミットメントである。

ワークショップの後半では、組織で共有可能な価値観・理想の組織と、自らの描く理想の違いを考えてもらい、何になら100%のコミットができるかを皆で共有してもらった。ここで個人攻撃が起こらない配慮は十分にしたつもりだが、それでも、上長の考えや、全体の雰囲気に圧されて、心にもないことをコミットした参加者も見受けられたように思う。ただ、全て完璧にはいかない。大事なのはこういった取り組みによって共感できる価値観と本当にコミットできることを組織と個人が探し続けるということではないかと思う。

とかく理念や価値観というと、教条的なにおいがつきまとう。一方で、今回のワークショップのフレームワークは「リーダレスリーダーシップ」とでも呼べるものである。個人の理想と個人の貢献の総和が組織の理想であり力となる。多様性の時代にはこういったトップダウンではないアプローチが求められるのではないかと思う次第である。



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